愛を忘れた冷酷領主×前世の記憶がある奴隷。切なく、甘く、美麗な、石原ケイコ作のファンタジーBLが開幕
公開日:2023/9/12
石原ケイコ先生といえば『偽りのフレイヤ』や『ストレンジ ドラゴン』(共に白泉社)などのファンタジー少女漫画の描き手として大人気だが、実は近年BL作品も描かれているのはご存じだろうか。それが電子増刊BLaLaで連載されている『貢ぎ物は冷血領主に運命を捧げる』である。
物語はシャウラという少年が、とある村から領主へ貢物として捧げられたところから始まる。冷酷非道と噂されていて、村々に重税を貸して娘を貢がせては、飽きたら処分するという。自身の愛娘を貢ぎたくなかった村長は、身寄りのないシャウラを捧げたのだった。
しかし、このシャウラが持つ秘密によって、物語は大きく変わっていく。シャウラは前世の記憶を持っており、暗殺者に狙われた主人を庇って死んだ。そして生まれ変わった今世、シャウラが貢がれた先の領主、彼こそが、その主人・アルタイルだったのだ。
冷酷の仮面をかぶったアルタイルの素顔を、言葉を、少しずつ引き出すシャウラ。近付いていく二人の距離がもどかしく、切なく、またいとおしい。初めこそシャウラを突き放す様子を見せていたアルタイルも、次第に性別などどうでもいい、お前が好きだ、というまっすぐな姿を見せるようになる。その変化に、心が温かくなった。人が想いあう姿とはかくも美しいのか……。
シャウラはアルタイルを前世から想い続けており、アルタイルはシャウラを「こんな欲望を持てる相手ができるとは」と感じている。アルタイルに至っては、「勝手に触るな これは俺の―」と独占欲を見せるまでになっているのだ。お互いがお互いを唯一無二だと思っているからこその甘い雰囲気が、ページをめくればめくるほど増えていく。最初は突拍子もないと感じたシャウラの前世の記憶についても、物語の丁寧な描写によって、気がつけば納得してしまっている自分がいる。石原ケイコ先生の手腕だ。
そして何より驚かされたのは、しっかりとしたBLにもかかわらず読みやすいことだろう。物語のどこを切り取っても美しく、ちょっと性的なシーンでもエロさを上回る美麗さを見せつけられるのだ。主人公二人を取り巻く切なくも甘い関係に、石原ケイコ先生の美しい作画。BL初心者もBLファンも楽しめる作品になっている。
物理的にも精神的にもどんどん近付く二人の距離に、読んでいるこちらが赤面してしまう。これからも末永く共に暮らしていてほしいと思う一方で、ハラハラしてしまう気持ちもある(実際、アルタイルは少年時代に暗殺者に殺されかけたのだ)。お願いだから、二人がこのまま幸せでいてくれますように、そう願いながら続きを楽しみにしている。
文=園田もなか