恐竜マニアに骨オタク!? 超マニアックな登場人物が繰り広げる風変わりなラブコメ

マンガ

公開日:2023/10/3

アヤメくんののんびり肉食日誌
アヤメくんののんびり肉食日誌』(町麻衣/祥伝社)

 考古学者の息子でイギリス帰国子女のアヤメくんは、恐竜マニアで人とはちょっとテンポがずれている、マイペースな男の子。骨をこよなく愛する研究室の先輩・椿に惹かれ、積極的にアプローチ。そんなアヤメを最初は恋愛対象とは見做さない椿だが、いつしか意識するように……。

 大学の生物学科研究室を舞台に、恐竜マニアに骨オタクなど風変わりな研究者の卵たちが繰り広げる恋愛群像を描いた大人気マンガ『アヤメくんののんびり肉食日誌』(町麻衣/祥伝社)。『フィール・ヤング』での連載はなんと11年目に突入し(11年経ってもまだ学生な彼らが羨ましい!!)、シリーズは累計120万部を突破。2017年には実写映画化もされている。

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 タイトルに「肉食」とあるけれど、アヤメくんの風貌は肉食どころかむしろ草食男子寄りだ。しかしその口説き文句(?)はストレートにして簡潔。突然、「おっぱい触らせてもらっていいですか」と椿に尋ねるのだ。

アヤメくんののんびり肉食日誌

 もちろん椿は「はいどうぞ」と応じるわけもなく、返す刀で「骨を見せて」と言い返す。骨の研究者である彼女は、自分好みの骨格であるかどうかを基準に付き合う男性を選んできた、これまた独自の感性の持ち主だった。

アヤメくんののんびり肉食日誌

 優秀な頭脳を持ち、かつ、いい骨をしているが中身はまるで小学生のアヤメを、てんで相手にしない椿。だけど自分の気持ちを素直に口にし、まっすぐ好意を伝えてくる彼に、今まで付き合ってきた元カレたちにはないものを覚える。動物園デートに不意打ちのキス。少しずつ接触が増えていき、子ども扱いしていた彼に“男”を感じるようになる。そして大学で開催される展示会の準備をするうち嵐がきて、アヤメと共に校舎内で夜を過ごすうちに、ついに一線を越えてしまうのだった。

アヤメくんののんびり肉食日誌

 憧れの椿と結ばれ、自分たちは恋人同士になったと喜ぶアヤメ。一方椿は、その場の勢いでセックスしたはいいものの、理知的な性格ゆえにアヤメとの恋に踏みだすのを躊躇してしまう。そこへアヤメを追って日本にやってきたイギリス時代の友人エリザベスが参入し、三角関係が勃発する。

アヤメくんののんびり肉食日誌

 ……と書くと、どろどろとした展開を想像されるかもしれないが、筋運びは至ってのんびりとしてユーモラス。アヤメくんをはじめとするキャラクターたちはいずれも個性的で、ヒロインの椿にとってライバルにあたるエリザベスですら、どこか憎めない。それが本作に品の良さを与え、読みやすさともなっている。加えて生物学の面白さ、奥深さが随所に盛り込まれているところも妙味を添えている。

 ゆっくりと、しかし着実に愛を育んでいくアヤメくんと椿先輩。物語が進むにつれ互いの進学や就活、同棲するか否か問題など、自分たちを待ち受ける問題の一つ一つに向きあう姿が丁寧に、微笑ましく綴られる。

 彼らを囲む脇役陣(いずれもキャラが立ちすぎ!)の各ストーリーにも独立した面白さがあり、一度ハマったら抜けだせないこと間違いなしだ。ラブコメディとしても群像ドラマとしても独特な魅力に充ちた町麻衣ワールドに、ぜひふれてみてほしい。

文=皆川ちか