TVアニメ&実写映画化で話題!『カメ止め』上田慎一郎監督も推す“大人の”ゾンビ活劇『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』
公開日:2023/9/17
勉強、仕事、家事育児で毎日いっぱいいっぱい……。そんな人は、まず胸に手をあてて自分に問うてほしい「やりたいことはやれているか」「進みたい方へ向かっているのか」。答えがNOという場合には、『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』(麻生羽呂:原作、高田康太郎:作画/小学館)を手に取ってほしい。この「どうすればいいのか」は意外とシンプルなことだと気づかせてくれるからだ。
本作は死んだ人間が生き返って人食いの化け物になる「ゾンビもの」だ。ゾンビを題材にしたエンタメ作品は映画をはじめ、ドラマ、ゲーム、マンガなどで多くの人気作品が生まれている。それらは「化け物、怖い、戦う」だけではなく、ゾンビがいる世界で人がどう生き抜くかを描き、人間の本質や現代社会の問題を浮かび上がらせる。
そして本作『ゾン100』も、そんな作品たちと並ぶ「ゾンビもの」だ。単行本は14巻まで発売中で、2023年夏にTVアニメ放送と、Netflixで実写映画化の配信も開始され、また、ゾンビ映画『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督も推している話題作だ。
物語は一人の青年が目を覚ますと、世界が一変していたところから始まる。いつの間にか、日本中にゾンビがあふれかえっていた……。
ゾンビになるまでにしたい100のことを考える物語
ゾンビ映画をみて「会社に比べりゃ天国だよな」とつぶやくのはアキラこと天道輝(てんどうあきら)。彼は徹夜と泊まり込みが続く激務の映像制作会社、いわゆるブラック企業で働く24歳だ。アキラはある朝、街にあふれかえるゾンビたちを目にする。そのとき彼は恐怖よりもこう考えた「今日から会社に行かなくていいんじゃね?」と。そしてゾンビたちに追われつつ「やりたいことをやれる時間は短い、ゾンビになる前に今までできなかったことをやり尽くす!」と決意する。
アキラは「ゾンビになるまでにしたい100のこと」をリスト化し、実行に移し始める。それは「部屋の大掃除をする」「昼間からビールを飲んでダラダラする」というブラック企業勤務で思考停止していてできなかったこと、そして「CAさんとコンパ」「日本一周をする」「最愛の女性と出会う」という願望だ。それらを思いつくままどんどん書き、叶ったらチェックしていく。たまたまゾンビに対して安全地帯の自室で気ままなサバイバル生活を送るなか、連絡が取れた学生時代の友人・ケンチョこと竜崎憲一朗と合流。自分の故郷であるグンマーを目指すことに。その途中、ゾンビから命を救った女性・シズカこと三日月閑と仲間になる。
アキラが気づいたように、人生は有限で長くはない。だが大人になると「やりたいことをやれるわけではない」と諦め「やるべきことをやるべき」という考えにとらわれる。アキラたちの「いつ終わってもいい」と覚悟を決めた旅は、羨ましく見え、きっとワクワクできるはず。本作は大人だからこそ分かることが多い作品だ。
す「べき」を乗り越え、し「たい」ことを最優先に
冒頭からしばらくは、日々の生存に精一杯になるはずのゾンビ世界でも絶望せず、なぜか楽しそうなアキラたちが描かれる。ただ彼も順風満帆に「ゾンビになるまでにしたい100のこと」ができるわけではなかった。
アキラ、ケンチョ、シズカは、旅の途中に車で事故り、そこで生き残った人間たちのグループに助けられる。そのグループのリーダー的存在なのが、ブラック企業でアキラの上司だった小杉だ。ゾンビ世界でも明るく前向きに過ごしてきたアキラだが、彼と再会したことで会社員時代の記憶が蘇り、当時と同じ思考停止状態に陥ってしまう。そして小杉に奴隷のように使われるようになる。
先を考えずに目の前の仕事をただやり続けるアキラは、意思を失ったゾンビのように……。数日後、彼はケンチョとシズカにうつろな目でこう伝える。
ここに残って…リーダーの下で働こうかな……って…
リーダーの恩義には、もっと応える「べき」だし
そのためにもここでずっと…働き続ける「べき」だって
シズカは、アキラが使った「べき」という言葉に反応して言い放つ。
明日をも知れぬこの世界で、
何が正解かなんて、誰にも分からない。
機械でもゾンビでもない。
あなたまだ人間よね?
あなたは本当は、どうし「たい」の?
そうシズカに言われたアキラがとった行動は――。
この序盤の山場と言っていいエピソードが終わると、物語は加速度的に盛り上がっていく。それぞれの思いを抱えて生き抜こうとするアキラたちと、舞台となるゾンビ世界がていねいに描かれていき、気持ちのいいカタルシスが何度も訪れるので期待してほしい。
「いつかはゾンビになるかもしれないから」と半ばやけくそに思いつつも、楽しんでサバイブしているアキラ。私たちが彼のように「やりたいようにやる」ためには、「人生は短いこと」と「やりたいことは何か」を認識するのが重要だ。たとえハードな日々でも明日ゾンビになるわけではない。私もまずは「やりたいことリスト」を作ってみることにした。
文=古林恭