『伊勢物語』あらすじ紹介。恋多き平安プレイボーイ“昔男”の恋愛遍歴を巡る物語
公開日:2023/9/18
古典の名作として知られる『伊勢物語』。名前は聞いたことがあっても内容は詳しくわからないという方も多いのでは? そこで本稿では『伊勢物語』の有名な章段のあらすじを簡潔にまとめ、解説とともに紹介します。
『伊勢物語』の作品解説
『伊勢物語』は平安初期にまとめられた物語で、その作者はわかっていません。歌物語と言われるジャンルの作品で、全部で125段の短編物語と209首の和歌で構成されており、ストーリーと関連のある和歌が織り交ぜられて展開されます。物語と歌とが同時進行で進み、現代のミュージカル作品のような感覚で楽しまれていたのかもしれません。
全体としては、あるひとりの男の青年期から死を意識するまでの一代記のような流れで進みますが、禁断の相手への恋、幼馴染との恋、熟年夫婦の恋など、恋にまつわるショートストーリーが連なるオムニバスとなっています。主人公の男のモデルとなったのが在原業平(ありわらのなりひら)と言われていますが、物語と史実で異なる点もあり、業平をモデルとしたフィクションであると言えます。
『伊勢物語』の主な登場人物
男:様々な女性と恋をする主人公の男で名前は明記されていない。実在した貴族で歌人の在原業平がモデルと言われるが、登場する男が全て同じ人物であるとは判別できない。「昔、男ありけり」で始まる章段が多いことから、「昔男」とも呼ばれる。
『伊勢物語』のあらすじ
昔あるところにひとりの男がいた。初冠(ういこうぶり・成人の儀のこと)を終えて、鷹狩りに出かけた先で美しい姉妹を垣間見る。思わず着ていたしのぶずりの着物の裾を切って和歌を書き付けて贈った。
春日野の若紫のすりごろもしのぶの乱れ限り知られず
歌意:春の野に咲く若紫で染めた衣のようなしのぶずりの模様のように、私の心もあなたに恋しのび、思い乱れている(第一段 初冠)
また、ある時男は京には自分の居場所がないと思い、東の方に住む場所を求めて友人と旅をした。その道中、美しく咲くカキツバタの花を見て、「かきつばた」という5文字を句の頭に置いて歌を詠んだ。
からころも着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ
歌意:着慣れた唐衣のように、慣れ親しんだ妻を都に残してきたわびしさをしみじみ思う(第九段 東下り)
『伊勢物語』の最終段で、男は病気になり、死を予感して歌を詠んだ。
つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
歌意:死出の道は誰しも最後に通る道と聞いていたが、昨日今日とは思わなかった(第百二十五段 つひに行く道)
<第88回に続く>