『ヰタ・セクスアリス』の読み方は? 著者・森鴎外の性体験をありのままに綴った異色作のあらすじを紹介!
公開日:2023/9/17
本作『ヰタ・セクスアリス』は森鴎外が自身の性体験を基に綴った短編小説です。あの文豪の……と、下世話ながらも興味がそそられませんか? この記事では、簡単な解説を交え、ストーリーを結末まで紹介します。読みやすい短編なので、ぜひ手に取ってみてください。
『ヰタ・セクスアリス』の作品解説
本作は「ウィタ・セクスアリス」と発音します。内容は、主人公である哲学者の金井が高等学校を卒業する長男への性教育のための資料として、自らの性的体験を綴ったもの。自身の性体験を基に書かれた本書は著者の作品の中でも異色とされており、その大胆な性的描写から発売して1ヶ月で発禁処分を受けています。
『ヰタ・セクスアリス』の主な登場人物
金井湛(しずか):哲学教師。自身の性体験を綴る。
古賀:東京英語学校時代のルームメイト。硬派。
児島:古賀の親友。古賀を通じて金井とも親しくなる。
『ヰタ・セクスアリス』のあらすじ
哲学教師である金井湛(しずか)は、自然主義の小説を読むたびに、必ず性的描写が伴うことに疑問を感じていた。そして同時に、そう考える自分は性欲に冷淡ではないのだろうかと思い悩む。そこで、高等学校を卒業する長男への性教育も兼ねて自身の性的体験を綴ることにした。
金井湛が6歳のときだった。近所に住む未亡人と知らない娘が顔を真っ赤にして本を読んでいる場に金井は居合わせる。その本は男女が絡み合った姿が描かれている、いわゆる春画であったが、6歳の金井にはそれが何なのかがわからず、ただただ不快感に包まれるだけだった。
やがて10歳になった金井は、蔵で綺麗な彩色が施された一冊の本を見つける。それが6歳のときに見た本と同種のものであることは、成長した金井には理解できた。
11歳。東京にある私立のドイツ語学校に入った金井は、そこで“男色”という性のあり方を知る。学校の寄宿舎では上級生による男色がまかり通っており、知人の家に下宿しているため寄宿舎に入っていない金井も、捕まりこそしなかったが上級生のターゲットにされていたのだ。
13歳で東京英語学校へ入学。寄宿舎での生活を始めた金井は、性的な観点から観察し、生徒達が女性を求める軟派、少年を愛する硬派の2派閥に分かれ、対立していることに気付く。そして、またしても「硬派」の標的にされる金井であったが、幸いなことに同室者は軟派の男だった。しかし、「軟派」生徒たちは成績が悪く、その多くが年末試験で退学処分を受けてしまう。寄宿舎の部屋割りも変わり、金井の新たな同室者は古賀という「硬派」の男であった。
不安を抱えながら古賀の部屋に引っ越した金井であったが、笑顔で迎えてくれた古賀には下心はなかった。古賀の友人である児島も加わって親交を深めていった3人は、禁欲を良しとする「三角同盟」を結成。このとき金井は15歳。3人で遊び歩いた勢いで吉原に行くこともあったが、女遊びをしようとはしなかった。
19歳で大学卒業を迎えても性欲に冷淡な金井には女性経験がない。初めて金井が女性と一夜を過ごしたのは20歳で、相手は知人に連れていかれた吉原の遊女だった。性に対して冷ややかな金井もこの時ばかりは性欲が理性を上回ったのだ。
以上が、執筆した自身の性欲史であったが、世に発表するに値せず、性教育として息子に読ませる価値すらない。そう判断した金井はこの手記に「ヰタ・セクスアリス(性的生活)」とタイトルを付けて、誰にも読まれないよう机の中に投げ入れた。
<第87回に続く>