『鶴の恩返し』あらすじ紹介。文字通り身を切って献身する鶴。好奇心に抗えずのぞいてしまうと…

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/14

「見るなのタブー」をご存じでしょうか? 神話や民話によくある「○○をしてはいけない」といわれたが、誘惑や好奇心には抗えず……といった物語のモチーフのひとつです。『鶴の恩返し』はまさにこのタブーを破ってしまうお話です。本稿ではドラマティックなストーリーを、解説をまじえて結末までご紹介します。

<第32回に続く>
鶴の恩返し

『鶴の恩返し』の作品解説

 助けた動物が恩返しをするお話を「動物報恩譚」といいます。『鶴の恩返し』はまさにその典型です。『鶴の恩返し』は類似する話が日本全国にあります。文献や伝承によって細部で差違が見られるのが特徴的で、特に多いのが『鶴女房』という、鶴を助けた人物がおじいさんではなく若者で、その若者と人間に化けた鶴が世帯を持つというラブストーリーです。

『鶴の恩返し』の主な登場人物

おじいさん・おばあさん:おじいさんが鶴を助けたのをきっかけに、人の姿になった鶴を娘として迎える。

鶴:罠にかかっていたところをおじいさんに助けられ、人の姿になり恩返しとして老夫婦の娘となる。

『鶴の恩返し』のあらすじ​​

 むかしむかし、貧しいけれど心の優しい老夫婦がつつましく暮らしていました。ある冬の日、おじいさんは雪の降り積もる山中で、猟師の罠にかかってもがき苦しんでいる一羽の鶴に出会います。哀れに思ったおじいさんは罠を外し、鶴を逃がしてあげました。

 その日の、雪がまだ降り続いている夜のことです。おばあさんに鶴の話をしていると、外から戸をたたく音が。戸を開けると、そこにはひとりの美しい娘が立っていました。曰く「雪の中、道に迷ってしまったので、ひと晩泊めてほしい」とのこと。おじいさんとおばあさんは快く受け入れ、娘を家に招き入れました。

 次の日も、また次の日も雪が降り続いたため、出立できずにいた娘は「いっそ、おふたりの娘にしてくれませんか」と願い出て、3人での暮らしが始まりました。おじいさんとおばあさんはとても貧しかったので、それを案じた娘は布を織ることにしました。「布を織っている間は絶対に部屋を覗かないでください」と娘は言いました。

 やがて3日が過ぎ、娘が部屋から出てきました。「これを町で売ってきてください」と差し出された布は神々しいほどに美しく、たちまち評判となり高値で売れました。歓喜するおじいさんとおばあさんでしたが、娘が若干やつれていることが少し気がかりでした。

 娘が布を織るごとに、大きな評判を受けて高値で売れるのでおじいさんとおばあさんの暮らしは楽になりましたが、娘はどんどん憔悴していきました。心配になったおじいさんとおばあさんは、ついに部屋を覗いてしまいました。

 娘の姿がいるはずのそこには、布を織っている一羽の鶴が。あの美しい布は、鶴が自身の羽根をむしって織り込むことで作っていたのです。しかし、今や羽根のほとんどが抜けて、ボロボロの見るも無残な姿……。

 驚きを隠せないふたりに、鶴は「私はあのとき助けてもらった鶴です」と告白。なんと、娘の正体は雪山でおじいさんが助けた鶴だったのです。そして「このままふたりの娘でいたかったが、正体を見られたからには去らねばならない」と、別れを嘆くおじいさんとおばあさんに見送られながら遠くの空へと帰っていきました。

『鶴の恩返し』の教訓・感想​​

この物語には、良いことをすると自分に返ってくるという教訓が含まれています。また、鶴との約束を破ってしまったおじいさんとおばあさんには辛い別れが。約束を破ってはいけないということも学べますね。