「森と三浦で漫画を描いてた、ということを残したい」―森恒二が三浦建太郎と最後に作った作品を語るインタビュー〈後編〉

マンガ

公開日:2023/9/26

森恒二先生

ベルセルク』の監修を務めている漫画家の森恒二先生は、現在「ヤングアニマルZERO」で太古の世界へとタイムスリップしてしまった大学生たちがホモ・サピエンスとともにネアンデルタール人と彼らを支配する謎の集団と戦う『創世のタイガ』を連載中だ。さらに「ヤングアニマル」誌上では不思議な夢を見る青年が許せぬ悪に鉄拳制裁を加えるダークヒーロー叙事詩『D.ダイバー』の連載を2023年から開始した。なぜ3つの作品を同時進行するのか? そして漫画にかける熱い思い、盟友三浦建太郎先生のことについて伺った。

インタビュー〈前編〉はこちら

取材・文=成田全(ナリタタモツ) 撮影=金澤正平

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三浦先生が読みたいと言った『創世のタイガ』

──連載中の作品についてお伺いします。第2部に入った『創世のタイガ』ですが、今後どんな展開になるのでしょう?

森恒二(以下、森):『創世のタイガ』は人類にまだ“国”という概念がないときに、なぜネアンデルタール人などの旧人類が滅びたのか、もしかしたらホモ・サピエンスと衝突があったんじゃないか、というのを僕の想像で描いた作品です。もしその衝突があったとすれば、それが人類最初の戦争、民族同士の衝突なんじゃないかと考え、そこへ民族主義の黒幕をタイムスリップさせて描いてみようという構想で始まったものです。僕は戦争規模のものを描いたことがなかったので、第2部ではその戦いを描こうと思っています。

──単行本9巻の巻末に「『創世のタイガ』という題名は先頃いってしまった私の親友、三浦建太郎がつけてくれたものです」とありました。

:そうなんです。でも、そもそも『創世のタイガ』は描くつもりのなかった作品なんですよ。実は最初に編集部にプレゼンしたのは別の話で、相談に乗ってくれていた三浦も「これは売れそうだ」と言っていた企画が通ったんです。でも連載が決まったことを伝えたら、三浦が「ん~、でもこれ森ちゃんが描かなくてもいいんじゃないの? 俺は読まないと思う」なんて言い始めたから、「ふざけんなよ、1年くらい相談してたじゃんか!」と。

 でも、確かに上層部の人たちは面白いと言ってくれたけど、若い編集者の反応がイマイチだったんですよね。すると三浦が「森ちゃんが言ってた、古代にタイムスリップする方が俺読みたいよ」と言って、なんか凄い気になって……途中まで出来ていたネームを引っ張り出して描いてみたら、3日くらいでヒュヒュヒュッとできたんですよ。で、そっちを持っていったら「こっちが読みたい!」と三浦が言ったんで、改めて編集部へ出してみたら若い編集者たちの反応が良かったんで、「こっちで行きます」と決まったものなんです。

──三浦先生は『創世のタイガ』を読まれていたんでしょうか?

:ん~……そうなんですよ、三浦……好きでしたね、結構。実は三浦が亡くなった後、三浦の母ちゃんに言われて、部屋を整理しに行ったんです。普段はお互いね、あんまり言わないじゃないですか、「お前の漫画読んでるよ」なんて。そしたら枕元に『創世のタイガ』の単行本が詰んであって……それ見たら、立てなくなっちゃって。きつかったですね。

──そうだったんですか……

:そう、だからタイトル含めて、結構三浦のアイデアが入ってるんですよ。本当は最初『アルファ・セブン』というタイトルだったんですけど、それを僕から聞いた三浦が「いやいやいや。それちょっとピンとこないだろう。古代の話をやるんだから、もっと古めかしい感じにしよう」ということで『創世のタイガ』に決まったんです。三浦もヒロインのティアリのデザインを描いてくれたりしてね。お互いいつも相談して描いてたもんですから、当然といえば当然なんですけど、『創世のタイガ』にも三浦のアイデアが残ってる。なので、最後までしっかり描きたいと思っています。

森恒二先生

三浦先生と一緒に作った最後の漫画『D.ダイバー』

──『創世のタイガ』の連載が第2部に入り、物語の終盤に差し掛かっている『ベルセルク』の監修もある中、なぜ新連載『D.ダイバー』をスタートさせたんでしょう?

:三浦から「森ちゃん、ダークヒーロー的なものを描けよ」とずっと言われてたんです。というのも、以前ある人から「『仮面ライダー』を描きませんか?」という話を持ちかけられたことがあったんです。僕は石ノ森章太郎先生の漫画に大きな影響を受けているので、「それやりたいです、僕自信あります」と返事をしたんです。

 それで三浦に「もしかしたら『仮面ライダー』を描くかもしれないよ」と言ったら「なんで他人の漫画を描くんだ。自分で描かなきゃダメだろ。森ちゃんが描かなきゃダメだよ」とすごく怒られて。そこからいろいろと考えていたら、三浦が「やっとわかった! 森ちゃんが一番得意なのは決闘だから、それをメインに描けよ」と言われて。『D.ダイバー』のストーリーを考えたのはもうだいぶ前なんですが、それから描け描けとずっと三浦から言われ続けていたのもあったし、『創世のタイガ』が終わる前にフライング気味で始めたのは、やっぱり自分がいつ描けなくなるかわからないなと思ったからですね。

──やはり三浦先生の死が大きかったですか。

:大きかったですね。三浦が最終回描かずにいなくなって、いつ本当に何が起こるかわからないし、自分もあと3年で60歳になりますからね。漫画家さん全員そうだと思いますけど、漫画家になってから30年、40年相当無理をして描いているんですよ。実は去年に徹夜した日にちを数えたら50日ちょっとあって、自分でビックリして。「これやってたら死んじゃうな」と本当に心配になったというか。だから急いだ、という経緯があるんです。

──三浦先生の死の前年には、三浦先生と森先生ご夫妻と懇意だった、映画『エゴイスト』の原作者でエッセイストの高山真さんのことも見送っています。

:いや本当にね、4人でよく一緒に食事したり、「60過ぎたら一緒に住むか!」とか言ってたんですよ。それが突然、立て続けに2人もいなくなってしまって……。だから『D.ダイバー』は三浦と作った最後の漫画になると思うので、描いて、残さないと、って思ったんです。『創世のタイガ』も『D.ダイバー』も三浦に怒られないよう、しっかり皆さんに「森と三浦で漫画を描いてたんだな」ということを残せるよう、一生懸命描いていきたいですね。

──本当に健康には十分注意なさってくださいね。

:奥さんにも「徹夜とか本当にやめてくれ」って言われてるんですけど、なんだろう……気性なんだろうね。原稿が終わってないとね、布団に入っても眠れないのよ。気が小さいもんだから「ここまで終わらなかった!」と思うと眠れなくて、結局また起きて描いたりして、これがループするんですよね。

 でもさすがに(徹夜した日が)50日超えてると思ったら、ゾッとした。それ毎年の出来事だったんだな、と思ったらもっとゾッとして……まあでも、同業者の奥さんというお目付け役がいますからね、大丈夫だと思います(笑)。あとは僕に何かあっちゃいけないんで、一応(スタジオ我画の)スタッフの皆さんには『ベルセルク』の今後についてはざっくり話してあります。

──いえいえ、まだまだ森先生にはご活躍いただかないと困ります! 今回はいろいろと辛いお話も伺って、すみませんでした。

:いやいや、僕にとってみたら三浦のことを思い出して話すのは、リハビリみたいなもんですよ。どうしてもしばらくは不在を意識する方がストレスが大きかったんで、『ベルセルク』のことや三浦のことをスタッフに話したりするのは自分にとってはすごく大事な時間だし、作品に関わることで救われているところがあるんです。やっぱりどうしても喪失感の方が大きくて……ちょっと厳しかったこともかなりあるんですよ。まだなんか、ちょっとこう……なかなか抜けるもんじゃないですよね。

 だから『ベルセルク』に関わっているのはプレッシャーもあるけど、心の均衡を保つにはとても大事なことで、自分のためでもあるんです。やっぱり「三浦のことを残したい」という気持ちがあるんでね。今の仕事が終わったら、これも三浦に描け描け言われてた『モリちゃん ケンちゃん』を描かないとなぁ。

森恒二先生

【プロフィール】
もり・こうじ 1966年東京都生まれ。日本大学藝術学部美術学科卒。広告業界でイラストレーターとして活躍後、2000年『ホーリーランド』の連載を開始、テレビドラマ化されるなど人気を集める。その後『自殺島』『デストロイ アンド レボリューション』『無法島』を執筆。現在は『創世のタイガ』『D.ダイバー』の連載と『ベルセルク』の監修を務めている。

『創世のタイガ』
大学の仲間と訪れたオーストラリアで、興味本位で入った洞窟の崩壊に巻き込まれてしまったタイガ。元の場所へ戻れなくなったタイガたちが出た先は、なぜか人類が高度な文明を築く前の太古の世界であった。知恵を絞ってなんとか生き延びるタイガたちだったが、その地に棲む動物やホモ・サピエンス、ネアンデルタール人の脅威に怯えるようになる。また学校で学んだ歴史では説明できない謎も深まり……彼らは生き延びることができるのか? なぜ太古の世界へと呼び寄せられたのか? 決死のサバイバルとバトルが始まる!

『D.ダイバー』
幼い頃に火事で両親を亡くした法律を学ぶ大学生・カグラ。毎夜見る炎が導くリアルな夢は、なぜか現実をはっきりと映し出すこともあり、その偶然に戸惑っている。ある日、ゼミの実習で取り上げた事件の傍聴のため裁判所を訪れた夜、その被告人である男が夢の中に現れ、事件現場を目撃したカグラは抑えきれない激しい衝動に駆られ、暴力によって男を打ち倒す。しかもこれが毎夜続き、夢が現実へ繋がっていく……なぜ奇妙な夢を見るのか? それは現実なのか? 炎の記憶を持つ新たなるダークヒーローが悪に立ち向かう!