絵を描く最初の一歩目はまず「絵を描くこと」。そしていざ白紙の画用紙を前にして気がつく事実/美術の進路相談④
公開日:2023/9/26
『美術の進路相談』(イトウハジメ/ポプラ社)第4回【全5回】
「絵を描くことを仕事にしたい」と思っている、美術大学や専門学校への進学を考えている人は必見! 大学の教壇に立ち美術を教えているイトウハジメ氏が執筆した『美術の進路相談』は、画家や漫画家、イラストレーターなど、絵を描く職業についての解説はもちろん、絵を描き続けるために大切なポイントをマンガやイラスト、文章でわかりやすく紹介します。昔は絵を描いていたけどが今は描かなくなった人や、絵を描かないけど鑑賞することは好きな人など、美術を趣味にしている人にもおすすめです!
絵を描く準備をしよう
美術の世界は、「見る力」と「描く力」というアイテムを装着することで、軽やかに歩くことができます。
このアイテムは磨くほどに光り、洗練させることができるし、生涯にわたって自分のオリジナルであり続けます。独自のモノの見方と形をもつということは、その人の強力な武器の一つであり、どんな職業にも共通して大なり小なり求められる力だといえます。
それでは、「見る力」と「描く力」はどのように育てたら良いのでしょう。また、正しく磨く方法はあるのでしょうか。
最もシンプルでたしかな方法として、ぼくは「絵を描くこと」をおすすめします。より丁寧に言いかえると、「時間をかけて対象を見つめ、時間をかけて対象を描くこと」。つまり中学校までに誰しもが経験した、デッサンや風景画などの時間です。美術の授業に詰まっていた、絵を描く行為の「キホンのキ」に、定期的に立ち返ることが重要です。
誤解のないよう補足をするなら、ここで指すのは誰かに見せるための絵ではありません。だから大事にとっておいたり、飾ったりすることはありません。新品の絵の具セットを買いに行くこともないし、もちろん上手に描きあげることも、完成した絵を「作品」と呼ぶ必要もありません。
どうして絵を描く時間がそんなにも大切なのでしょうか。それは、この穏やかで激しい時間に、実に多くの発見と創造的な思索が詰まっているからです。
あの頃の授業で、もっと上手に描きたいと悩んでいた方もいるでしょう。もう長らく絵を描いていないという方もいるでしょう。どうか安心して、ここから先のページをめくってください。絵を描く時間の意味や、そのなかで起こるさまざまな闘いについて、ぼくと一緒に考えてみましょう。そして創造の原点がどんな場所に隠れているのか、見つめ直してみましょう。
さあここから、イトウ先生による美術の時間のはじまりです。