忙しい時こそ出来たてのご飯を。現代人が疎かにしがちな食事を、小児科医の手料理から学びなおす『神辺先生の当直ごはん』
公開日:2023/10/1
仕事が忙しくなるほど、疎かになりがちな食事と睡眠。特に命を守る医療現場において、食は体や脳を正常に動かし、集中力を維持させるためにも妥協してはいけないことのひとつだ。しかし急患対応や激務の影響もあって、だめだとわかっていてもインスタント食品や栄養ドリンク系に手を伸ばしがちなのが現状。僕も看護師時代、よく簡単お手軽の代表格・カップラーメン様にお世話になった。もちろん、それらを決して全否定しているわけではないが、栄養が考えられた料理にはかなわない。
また医療現場に限らずとも、日々の仕事で栄養が偏った食事になっていたり、そもそも食事の時間をまともに確保していなかったり、なんて人もいるのではないだろうか。そんな人にこそ『神辺先生の当直ごはん』(ちんねん:原作、能一ニェ:漫画/KADOKAWA)を読んでほしい。食がどれだけ人の心と体に大切なのか、再認識できるはずだ。
物語の舞台は、数ある診療科の中でも、個性的な患者・家族、急変が多く、医師の神経がすり減るといわれる小児科。主人公の一人で小児科医の平野太一は、まだ研修を終えて間もない新人医師なりに、救急搬送された子どもや夜間外来に訪れる子どもと向きあう毎日を送っていた。責任感が強く、ドが付くほど真面目な性格の彼はある日、自分の診察方法は看護師の仕事を増やし、患者に迷惑をかけてしまっているのではと自信をなくしてしまう。いつ来るか予想できない事態に対してあたふたし、看護師や他のスタッフの仕事を増やしてしまうのは、1年目の医師であれば至極当たり前。むしろそういう経験をして初めて現場に慣れるもの。でも平野は最初から完璧を求めすぎているため、作中では何度も医師としての壁にぶつかってしまうのだ。
そんな大変な環境下で平野の心を癒すもの。それは温かい火の通ったご飯だ。料理人は本作のもう一人の主人公であり、平野の先輩・神辺。彼は家に帰らず医局で生活する変わり者で、毎日のように手の込んだ料理を作っている。神辺の料理を口にする平野は、心の余裕を取り戻すと同時に、食の大切さにも気付いていく。神辺も平野に対してこのように語る。
“そんな環境だからこそ炊き立ての米と火を通したばかりのものを食べる。その熱が当直を乗り越えるエネルギーに変わってくれる”
作中では毎回、神辺が料理を作るシーンが描かれるのだが、毎回本当に目の前に温かいご飯が並んでいて美味しそうに感じるのだ。僕の経験上、当直室でご飯を作っている医師は見たことがないが、当直医師や夜勤看護師が炊き立てのご飯や温かいおかずが食べられる環境が病院にあれば、きっと多くの人が利用するはずだ。短い時間でも心と体は癒されるだろう。
冒頭でも述べたが、この話は医療現場だけに限ったことではない。日々の仕事に追われ、食が疎かになりがちなすべての社会人に通じることだ。もしちょっとでも当てはまると感じた人は、本書を読んで食の大切さを再認識していただきたい。
文=トヤカン