二宮和也×波瑠で映画化! ビートたけし氏の純愛小説『アナログ』。コントのような会話や、著者の母を思わせる人物などの魅力とは

文芸・カルチャー

更新日:2023/10/12

アナログ
アナログ』(ビートたけし/新潮社)

 10月6日に公開される映画『アナログ』。二宮和也さんが主演、波留さんがヒロイン役を務めることで話題を集めています。本記事はその原作であり、ビートたけし氏が初めて書いた純愛小説でもある『アナログ』(ビートたけし/新潮社)について紹介します。

 主人公・水島悟はインテリアデザイナー。なんでも手柄を横取りする上司に辟易し、そのストレスを高校時代からの悪友と飲みに行くことで発散する日々を送っています。そんなある日、悟は自分が内装を手掛けた喫茶店「ピアノ」でみゆきと出会います。上品で魅力的なみゆきにすぐに惹かれた悟。別れ際にまた会えるか尋ねると、みゆきは何もなければ毎週木曜日はこのお店に来ていると伝えます。そこから1週間、徹夜も辞さずになんとか仕事を終えて、木曜日に「ピアノ」を訪れる悟。無事みゆきと会うことができ、今度は食事に。さらに彼女に好意を持ちます。

 少し話しただけの女性にまた会うために、文字通り身を削って仕事に向かう悟。いざ木曜日になると彼女が来るか不安になったり、彼女に会ってからも緊張して変な言葉を口走ってしまったり。もう30代なのにまるで純粋な少年のような悟のみゆきへの思いは瑞々しく、古希を過ぎた作者の作品とは思えないほど。

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 しかし一方で本作はビートたけし氏らしさが詰まった作品でもあります。特に悪友ふたりと悟が飲むシーンでは会話の流れがまるでコント。ビートたけし氏が話しているかのように映像が頭に浮かんできます。そしてさらに特徴的な存在は母。悟は母子家庭で育っており、昼夜を問わず働いてきた母がひとりで悟を育ててきました。しかし今は当時の栄養不足と過度な労働がたたって、体を悪くしています。足や腰の負担を軽くする手術を医者や悟が勧めても、子どもに迷惑をかけたくないのか拒否する母。その姿は決して裕福ではない中でも子どもたちの教育を優先し大切にしてきたというたけし氏の母・さきさんの姿を感じます。恋愛がメインテーマの小説ですが、母と悟のシーンにも胸を打たれるものがあります。

 その後悟はさらに彼女と打ち解けますが、連絡先の交換をにおわせた時に乗り気ではなさそうな彼女の態度を見て、お互い名前だけ分かっていれば、携帯とかメールなんて知らない方がいい、と言ってしまいます。「そういうのってステキですよね」と好反応を示した彼女に、やっぱり連絡先を聞けなかった悟。しかしそれでも木曜日にクラシックを聴きに行ったり、落語に行ったりと、順調に仲は深まっています。そしてついにプロポーズをすることに決めた悟は指輪を購入。緊張しながらみゆきを待つ悟でしたが、その日初めて彼女は現れず。それどころかそれ以来、みゆきは「ピアノ」に現れなくなってしまったのです。

 電話もメールもなかった時代のような、まさに“アナログ”な恋。悟は仕事での模型製作も、コンピューターを使わず、工作のように紙を貼り合わせながら作っていきます。そのせいか、作品全体の空気も時間がゆったりと流れている気も。しかしみゆきがそんな関係を望むのには理由があり、ただ“昔の方がよかった”という結末では終わらないのが本作です。

 俳優として評価の高い二宮さんですが、実は恋愛をメインとした作品への出演は特に近年少なく、純粋で朴訥な愛情を示す悟をどう演じるのか楽しみです。また作中で「母であり菩薩であり天使」と評されるみゆきは上品な波留さんのイメージにぴったり。映画を観る前に、観た後でも、読めば登場人物の演技にさらに深く迫れそうです。

文=原智香