性被害や虐待を受けていた非行少女のかつての拠り所。10代女性の暴走族「レディース」の栄枯盛衰を探る
更新日:2023/10/20
「レディース」という名称は、もはや死語かもしれない。主に10代の女性の暴走族やチームを指す言葉だが、90年代に入ったあたりから徐々に衰退。95年代半ばからルーズソックスを履いたコギャルに取って代わられたから、若い人にはイメージしづらいだろう。特攻服を着て改造車で暴走を繰り返す彼女らは、もはや天然記念物と言ってもいい存在である。
そんなレディースの生き様に魅せられたのが、編集者の比嘉健二氏だ。氏は彼女たちの生の姿形を追った雑誌『ティーンズロード』を1989年に刊行。執拗なほどに粘り強い取材や撮影を通して、彼女らの背中を追い続けた。そんな比嘉氏が当時の編集作業を回顧しながら、レディースの実像を描き出したのが、『特攻少女と1825日』(小学館)だ。
『ティーンズロード』の誌面には、レディース全員の集合写真や改造バイクのほか、読者の投稿などが掲載された。レディース総長へのロングインタビューや、人気総長の公開質問コーナーなども好評を博したという。一方で、シンナーについて否定的な記事も作成するなど、レディースの負の側面も怖じることなく取り上げていた。読み物の記事を充実させることで、読者は着実に増えていったという。
本書によると『ティーンズロード』に出ることが一種のステイタスになり、雑誌に載せてもらうために結成されたレディースもいたという。更には、元レディース総長3人があの松任谷由実とのフォト・セッションを行ったというから驚きだ。しかもこの時、元レディース総長は遅刻してきて、ユーミンを待たせたという。
また、同誌の読者の多くは、学校や家庭に馴染めずに、日常に居心地の悪さを感じており、レディースはそうした層の受け皿にもなっていた。家では性被害や虐待などを受けていた非行少女にとって、レディースは拠り所となる貴重な居場所だったのである。言い換えれば、レディースは社会との接点を失った若者にとっての、セーフティーネットとしても機能していたと思う。
また本書では、当時の誌面を飾った人気レディースたちの「その後」も描かれる。かつてレディースの総長としてならした「じゅんこ」は、10代のリアルな声を集めた雑誌を刊行。その後、行き場を失った少年少女を援助するNPO法人を設立した。彼女は、実体験を踏まえ、DVや貧困や薬物問題にあえぐティーンを包摂する役目を果たす。そのために夫と始めたNPOは現在40人のスタッフがいるという。比嘉氏も、当の本人も、元レディースが社会貢献をすることになるとは思わなかっただろう。
埼玉のレディースの4代目総長を務めた「すえこ」は、08年に『紫の青春』という自伝的な本を上梓。メディアからも好意的に取り上げられた。彼女もまた、少年院出身者による自助グループであるNPO法人「セカンドチャンス!」を仲間と設立し、少年少女の立ち上がりを支援し始めた。すえこは、少年院に入所した少女たちを追ったドキュメンタリー映画を撮影し、公開もした。彼女はリサーチのために、全国の女子少年院9か所をすべてまわったという。
テレビで切り取られる不良やヤンキーは、ステレオタイプにはめられることが多い。例えば、モザイクつきのニュース映像で偉そうにしゃべる非行少女。あるいは、学園ドラマや漫画に登場するような札つきのワルともされるヤンキー少女。彼女らはその人格をデフォルメされ、おもしろおかしく描かれることが多かった。
だが、モザイクの向こう側の彼女らは、笑ったり泣いたりするひとりの若者に過ぎない。ゆえに、彼女らの実像に真っ向から向き合い、対等な目線でその声を拾った比嘉氏による回顧録は貴重だ。だからこそ、本書が第29回小学館ノンフィクション大賞を受賞したのは吉報であり、多くの人に希望をもたらしてくれたのではないだろうか。
文=土佐有明