「南海トラフ巨大地震」が発生したらどうすればいい? 綿密な取材をもとに描かれたマンガで巨大地震発生時を生き抜く

マンガ

更新日:2023/10/12

南海トラフ巨大地震
南海トラフ巨大地震』(よしづきくみち:著、biki:原著/講談社)

 近い将来、起きると言われている「南海トラフ巨大地震」。いざという時のために備えはしていても、実際に直面したら、冷静に行動できるだろうか…と不安な人はきっと多いはずだ。

南海トラフ巨大地震』(よしづきくみち:著、biki:原著/講談社)は、そんな方にぜひ読んでほしいコミック。本作は、ウェブメディア「現代ビジネス」で1000万PV超えを記録。綿密な取材に基づいて、“いつか起きる災害のリアル”が描かれているため、自分や大切な人の命を守るヒントが得られる。

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■南海トラフ巨大地震が発生!名古屋港にいた主人公の運命は…?

 2025年2月11日、その災害は発生した。派遣社員の西藤命(27)は人生に嫌気が差し、気分転換に海が見える名古屋市港区へ。

 こんな世界、壊れてしまえば楽なのに。いっそ、誰か壊してくれないかな…。そう暗い気持ちになっていたところ、一方的に説教をしてくる癖の強いおじいさんに遭遇。誰彼構わず“ウザがらみ”をするおじいさんの姿に、命は未来の自分を見たような気になった。

 あんな風にはなりたくない。パチンコもやめ、もう少しまっとうに生きる努力をしたら、自分も変われるだろうか。そんな気持ちになり、生き方を改めようと決意した次の瞬間、南海トラフ巨大地震が発生してしまう。

 街の姿は建物が倒壊してすっかり変わり果て、防災無線からは大津波警報が発令されたとのアナウンスが。そして、命の前では、ウザがらみをしてきたおじいさんが電柱に脚を潰され、身動きが取れない状態になっていた。命は自分の命とよく知らない他人の命を天秤にかけ、おじいさんを助けるか、ひとりで避難をするか、心苦しい選択を迫られることとなる。

 結局、命はおじいさんを背負いながら逃げることに。だが、人ひとりの体重は想像以上に重く、1歩踏み出すのがやっとの状態。おまけにおじいさんが口にするのは、文句ばかり。気持ちばかりが焦る中、ついに津波は港区全域に到達してしまった。

 ピンチにさらされた命は体力的にも精神的にも限界を感じ、相変わらず文句ばかりを口にするおじいさんを置いて、ひとりで逃げようとし始める。だが、そんな命の姿を見たおじいさんは謝罪し、「死にたくない」と号泣。見捨てないでほしいとすがってきた。

 人間のこんな顔、初めて見た…。そう感じるも命の考えは変わらず。近くにあった車におじいさんを乗せ、ひとりで高台へ向かおうとする。しかし、腕を掴み、「死にたくない」「独りにしないでくれ」と訴えるおじいさんの言葉が胸に刺さり、その場から動けなくなってしまった。

 結局、命はおじいさんと2人、車の中で救助を待つことに。だが、救助が来る前に命たちが乗った車は津波によって、水没寸前の状態に。果たして、この絶体絶命なピンチに命はどう立ち向かうのだろうか。

 本作は単に災害の恐ろしさをリアルに描いているのではなく、南海トラフ巨大地震が発生した時に起こり得る事態も知れて、タメになる。例えば、個人的に驚いたのが、名古屋市で想定されている南海トラフ巨大地震発生時の津波は東日本大震災とは違う特徴があるということ。白波を伴わず、じりじりと迫りくるため、進行が分かりにくいのだという。

 そうした恐怖も命の姿を通して伝えられているため、改めて被災時の行動を頭の中でシミュレーションし、もしもの時に備えておきたくなる。

 また、本作では事前に備えておきたい道具や車に乗っている時に津波にのまれた場合の行動など、命を守るための情報も学べてありがたい。巻末には50年以上にわたり、世界中で発生する災害の現地調査を実施してきた防災の専門家である防災システム研究所所長の山村武彦氏による、南海トラフ巨大地震のついての書き下ろし解説も掲載。

 防災・危機管理アドバイザーでもある山村氏が語る、南海トラフ巨大地震の基礎知識を目にすると、今のうちからできる防災対策をしておかねばと、改めて身が引き締まる。

 当たり前だと思っている生活が予期せぬ災害によって一変した時、どんな行動をとれば生き延びることができるのだろうか。そう考えさせられる本作は、地震多発国に生まれた私たちに刺さる一冊だ。

文=古川諭香