小食の夫を太らせたい妻の思惑は!? 夫婦それぞれの視点から描く、お腹も心もほっこりするグルメラブコメディ

マンガ

公開日:2023/9/26

妻は僕を太らせたい!
妻は僕を太らせたい!』(栗栖ひよ子:原作、すずの志侑:漫画/スクウェア・エニックス)

 秋といえば読書、スポーツ、そしてグルメ!

 ……と季節にかこつけなくとも、食をテーマにしたマンガは数多い。『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)のようにレシピを懇切丁寧に紹介してくれるものから、『孤独のグルメ』(久住昌之:原作、谷口ジロー:作画/扶桑社)のような食べ専まで、ひと口に食マンガといえども、その幅は実に広い。

妻は僕を太らせたい!』(栗栖ひよ子:原作、すずの志侑:漫画/スクウェア・エニックス)は、新婚夫婦のラブコメディとグルメ要素を掛け合わせた、お腹も心もほっこりする物語だ。

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 太一と柚子は結婚して1ヶ月になる新婚夫婦。

 ストレスや緊張が重なると食が細くなってしまう太一は、仕事が繁忙期に入り、どんどん食欲が落ちてしまう。料理上手な妻が毎晩腕を振るって夕食を作ってくれるのに、ひと口も喉を通らない日々が続く。

妻は僕を太らせたい!

妻は僕を太らせたい!

 食べたいのに食べられない。なによりも辛いのは、せっかく柚子が作ってくれる美味しいごはんを口にしない(できない)ことで、彼女をがっかりさせてしまっていること。こんな自分が情けない――。

 と落ち込んでいるときに柚子が供してくれたのは、ニンニクと鷹の爪で味付けをした「焼き枝豆」に、ひと口サイズの「変わり春巻き」だった。

妻は僕を太らせたい!

妻は僕を太らせたい!

 疲れて食欲がなくとも、たくさん食べられなくとも満足感が味わえる料理を……という柚子の気遣いに太一は感動するけれど、彼はまだ彼女の真意を知らない。実は柚子には、ある特殊な嗜好が隠されているのだった。

 実家が食堂である彼女は、幼い頃からお客さんが美味しそうに食事する姿を眺めるのが好きだった。痩せている人を見ると美味しいものをたくさん食べさせ、太らせたいという衝動に駆られてしまう。

妻は僕を太らせたい!

 そんな柚子にとって小食で細身の太一は好みのど真ん中。お見合いの席で自ら押して押して押しまくり、めでたく結婚と相成った。太一からすれば、なぜ柚子のようなすてきな女性が冴えない自分を選んでくれたのか、夫婦となった今でも分からない。それでも柚子の愛情(と思惑)のこもった料理を通して、少しずつ夫婦の絆を深めていく。

 太一と柚子の双方の視点から1つのできごとが交互に描かれ、互いに相手を思いやる姿がユーモラス、かつこまやかに展開していく。お花見デートや太一の花粉症デビュー、結婚して初めての連休に、幼い頃に実はふたりは出会っていたという思い出まで、紡がれるエピソードの一つ一つが微笑ましい。そして各回を彩る料理の数々がまた、美味しそうなことこの上ない(お花見回では「3種のサンドイッチ」に「特製ポテトフライ」、ゴールデンウィーク回では“お子様ランチ”ならぬ「大人様ランチ」など)。

妻は僕を太らせたい!

妻は僕を太らせたい!

 愛する人が作ってくれた料理を食べる幸せと、愛する人が自分の作った料理を美味しそうに食べてくれる幸せ。2つの幸せが存分に詰まった、多幸感たっぷりの作品だ。

文=皆川ちか

©Hiyoko Kurisu/SQUARE ENIX
©Syuu Suzuno/SQUARE ENIX