人生で足りないと困るものは、果たして何でしょうか。お金？ それとも健康？ 『おもいっきり東京ライフ』（まめ/集英社）は「人生に刺激が足りない！」といわんばかりに、北海道から東京へと移住を決意したシングルマザー・まめさんのエピソードを綴ったエッセイマンガです。

　慣れ親しんだ北海道での暮らしにどこか物足りなさを感じ、とにもかくにも刺激が欲しくて堪らなくなってしまったまめさん。手っ取り早く滾りを得るために激辛ラーメンを食べ漁る中、ある考えに思い至ります。

「そうだ、東京に住もう」

　思い立ったが吉日とばかりに実行に移す、そのエネルギッシュな姿勢にただただ驚かされるばかりです。

非日常なのに、日常

　今までにない出会いやイベントを求めて遂に上京したまめさん。憧れの東京ライフがスタートするも、エピソードはこれでもかというくらいに「日常」そのもの。刺激的で非日常的なエピソードが描かれるかと思いきや、そこにあるのは誰もが手触りをもって感じられるような日常なのです。

　東京で暮らしはじめたはいいものの、取り寄せたベッドが不良品でガッカリ。秋葉原のパソコンショップで忙しすぎるあまりフリーズする店員とのシュールな時間を過ごしたり。勇気を持って美容室を変えてみるも、もみあげ周辺に謎のV字が出現してテンションが下がったり。パソコンの初期設定をしに来てくれたおっちゃんの独り言がやけにデカかったり。韓国料理屋のオモニが食べ方にめちゃくちゃうるさい人で、料理の味を全然覚えていなかったり。

　気にも留めなければそのままするりと通り過ぎてしまうようなエピソードを掴む観察眼がとにかく秀逸なのです。本作には、ささやかな日常でも面白いポイントを見つけて楽しめれば、それだけで人生勝ったも同然じゃないかと思わせるパワーがあります。

出会いを楽しむことこそ人生

　まめさんは、東京に来てから韓国語教室に通ったり、趣味を通して出会った友人とランチをしたり、東京観光バスツアーに単独で参加したりと、積極的に行動しています。北海道にいた頃に思い描いた刺激かどうかはわかりませんが、確実に世界を広げているのです。

　クスクス笑いながら、その行動力に勇気づけられる。日々を楽しく豊かに暮らすためのヒントが隠れた一冊です。

執筆：ネゴト / もり氏