『小公子』あらすじ紹介。『小公女』との違いは? 傲慢な偏屈じいさんを変えたのは、純真無垢な少年の心だった
公開日:2023/9/28
『小公女セーラ』と並び、『小公子セディ』というタイトルでアニメ化もされた児童文学『小公子』。その知名度や訳題から男児版『小公女』というイメージの強い本作ですが、単なる男女の違いにとどまらない、また違った趣のある作品です。
本稿ではそんなバーネット『小公子』のあらすじをわかりやすく紹介します。似たようなものだろうと未読の方も、ぜひ一度お手にとってみてください。
<第34回に続く>
『小公子』の作品解説
本作は、1886年に『Little Lord Fauntleroy(ちいさなフォントルロイ卿)』の題で出版された児童向け文学です。邦題『小公子』は、1890年の訳本で付けられました。
作者が同じ『小公女』と比較すると、悲惨な環境の中でヒロインの崇高な精神と地道な努力が実を結ぶ同作に対し、本作では愛すべき少年のひたすらまっすぐで純真無垢な心が、偏屈な貴族の心を溶かし家族の幸せにつながる展開となっています。
『小公子』の主な登場人物
セドリック:かわいらしい7歳の少年。疑うことを知らず、明るく純真な性格。
ディック:セドリックの友人で靴磨き。頭の回転が速い。
ホッブズ:セドリックの友人。愛想のない食料品店店主。
エロル夫人:セドリックの母でアメリカ人。思慮深い未亡人。
ドリンコート伯爵:セドリックの父方の祖父。孤独なイギリス貴族で、痛風と癇癪持ち。
ハヴィシャム卿:ドリンコート伯爵専属の弁護士。空気の読めるナイスガイ。
『小公子』のあらすじ
ニューヨークの下町で、お母さんとふたり暮らしのセドリック。ある日、絶縁していたイギリスに住む祖父・ドリンコート伯爵が弁護士をよこして「セドリックに跡継ぎになってほしい」と伝えます。はじめはドリンコート伯爵家の跡取りの名称である「フォントルロイ卿」なんて呼ばれるのは気が進みませんでしたが、出発までの間、伯爵の好意でみんなに親切にできると聞いて、セドリックは乗り気になりました。実は伯爵からの指示は「わしの力を見せつけてやれ!」という高慢なものでしたが、セドリックがあまりに嬉しそうなので、弁護士も黙っていたのでした。
かくしてイギリスへ向かう船上、セドリックはお母さんから、一緒にお城では暮らせないと聞かされます。セドリックには秘密でしたが、伯爵はアメリカの庶民であるお母さんを毛嫌いしていたのです。孫の様子について、伯爵から報告を求められた弁護士は、あえて多くを語らず、彼は祖父と母の不仲を知らない、伯爵を良心ある祖父だと信じている、とだけ伝えました。
さて、世間体を気にして孫を呼びつけた伯爵でしたが、その純真さに考えを改めます。一緒に暮らすうち、セドリックが伯爵のことを心から尊敬しているとわかると、自分が果たしてそれにふさわしい人物かを内省するのでした。
そんな中、跡継ぎのお披露目会で事件が起こります。伯爵の亡き長男と離婚した元妻を名乗る女性が、自分の息子にも権利があると弁護士に申し立ててきたのです。発展した相続争いは新聞記事になるほどでしたが、セドリックは家族の生活が守られるなら、爵位なんてどうでもいいやと落ち着いたもの。逆にこれまで親戚の顔も忘れ、家族を疎かにしてきたことを後悔した伯爵が、エロル夫人のところを訪ね、謝罪して慰めてもらうほどでした。
一方その頃、セドリックから「伯爵にならなくてすむよ!」という手紙を受け取った友人ディックとホッブズは、NYで新聞に載った写真を見て驚きます。後継者争いに参戦した女性は、実はディックの兄の元妻ミンナで、伯爵家とは縁もゆかりもない赤の他人だったのです。ディックは慌てて兄と伯爵、そしてセドリックにも手紙を出し、事情を知った伯爵と弁護士は一計を案じます。ディック兄弟を密かに呼び寄せ、何も知らないミンナと引き合わせたのです。兄弟が伯爵の前で身元を証言すると、彼女は当たり散らしながら出ていき、二度と戻りませんでした。
伯爵は大急ぎでセドリックと夫人のもとを訪れ、彼が「本物のフォントルロイ卿」になれることを伝え、どうか一緒に住んでほしいと頼みこみます。一件落着、盛大に催された誕生日パーティーで幸せに笑うセドリックの姿に、伯爵もまた、これまでに感じたことのなかった幸福に包まれるのでした。
『小公子』の教訓・感想
何の見返りも求めず困っている人を助ける清らかな少年の心は傲慢な貴族の祖父を変えていきます。自分の利益にとらわれず他者を思いやる気持ち、純粋無垢な心を持つことの大切さを教えてくれるとともに、そういった人柄は周囲の人間にも良い影響を与え、変えていく力もあるということも学べる作品です。