オスカー・ワイルド『幸福な王子』あらすじ紹介。本当の幸せって何? 王子とツバメは哀れな人々を助け、幸せになれたのか?
公開日:2023/10/1
「幸せって何だろう?」という問いに、一言で答えられる人はそう多くないと思います。何かをする時に、その行為のどこに幸せを感じているのか、本当に幸せになっているのは誰なのか、気付けない場合も多くあるはずです。
本稿でご紹介するオスカー・ワイルド『幸福な王子』は、手に取りやすい児童文学でありながら幸せについて考えるきっかけを与えてくれます。神様に赦され救われる、キリスト教的な価値観にあまり馴染みのない日本人にこそ、ぜひ読んでもらいたい作品です。
<第37回に続く>
『幸福な王子』の作品解説
本作は、19世紀アイルランドの文筆家オスカー・ワイルドが記した児童文学です。彼は詩から戯曲・小説・論評まで多彩なジャンルを残した作家で、童話集の中の一篇として本作が収録されました。
博愛・自己犠牲の精神や、王子と運命を共にするツバメの健気さが印象的で、後世でも児童向け絵本として多くの読者に愛されています。
『幸福な王子』の主な登場人物
幸せの王子像:町の誇りとなっている豪奢な像。亡くなった王子の魂が人知れず宿っている。
ツバメ:暖かいエジプトを目指す途上、群れからはぐれてしまった。
貧しい親子:やつれた母親と、高熱にうなされ苦しんでいる息子。
物書きの若者:寒さと空腹にあえぎ、作品が書けずにいる男性。
マッチ売りの少女:商品をどぶに落としてしまった少女。
『幸福な王子』のあらすじ
ある町の広場に立つ「幸福な王子」の像の足元で、群れからはぐれたツバメが休んでいました。ふと見上げたツバメは、像が涙を流しているのを見て驚きます。王子はツバメに「死んでから住民たちのみじめさがわかるようになった」と語りかけ、人助けをしてくれるよう夜ごと頼みました。
冬が迫り、エジプトに早く渡りたいツバメでしたが、王子を憐れんで協力することにします。最初は剣の柄のルビーを貧しい親子へ、次の晩は片目のサファイアを物書きの若者へ、その次はもう片方の目をマッチ売りの少女へ……。
とうとう何も見えなくなってしまった王子の目となるため、ツバメは雪が降り出すまでは街に残ることにしました。街中を飛び回ったツバメから哀れな人々の話を聞くと、王子は自分の体の金箔を剥がして配るように言います。ツバメが言いつけ通りにすると、子どもたちの青白い顔は血気あるバラ色に、王子の体は黄金から鈍い灰色へと変わっていきました。
そして、雪の降り出したある寒い晩、ツバメは王子の傍で息絶えます。それと同時に、鉛でできた王子の心臓も砕けてしまいました。あくる朝、すっかり変わり果てた王子の姿を見た市長と議員たちは「これでは哀れの王子だ」とののしり、鋳物工場で溶かしてしまおうとします。しかし、不思議なことに鉛の心臓だけはどうしても溶けなかったので、ツバメの亡骸と共に捨てられてしまいました。
その様子を見ていた神様が、天使に「この街で一番の宝物を持っておいで」と言うと、天使はゴミの山の中から鉛の心臓と、ツバメの亡骸を持って天界へ帰ります。神様は「正しい選び方をしたね」と満足そうに微笑むのでした。
『幸福な王子』の教訓・感想
王子とツバメの行いは、キリスト教的な美徳である献身的な無償の愛(アガペー)を連想させますね。市長と議員が、王子の像がなぜこのような姿になったのかを気に留めることなく「これでは哀れの王子だ」とののしって溶かそうとする場面では、人間の醜い部分を皮肉っているようにも感じられる作品です。