「無知とは幸福なこと」の意味とは?ラノベ作家×イラストレーターが贈る、新作ダークファンタジーが開幕!

マンガ

公開日:2023/9/29

匣庭の葬送師
匣庭の葬送師』(綾里けいし:原作、京一:漫画/白泉社)

 何も知らずに楽しく生きるか、それともすべてを知って運命に立ち向かうか……。呪いと魔法の旅を描いた『匣庭(はこにわ)の葬送師』(綾里けいし:原作、京一:漫画/白泉社)第1巻が、9月29日に発売される。

 物語の舞台は、高い壁に囲まれた「匣庭(はこにわ)」。

 匣庭で暮らす身寄りのない子どもたちは、葬送師になるため、日々修練を重ねていた。「葬送師(そうそうし)」とは文字通り、人を葬る儀式をする人。この世界では葬送師が儀式をしない限り、死者は旅立つことができないと考えられている。

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匣庭の葬送師

匣庭の葬送師

 主人公のユウも立派な葬送師になることを夢見る少女。好奇心旺盛なユウは、親友のエレといつの日か匣庭の外に出て冒険することを約束した。

 ところがある晩、ユウとエレは見てはいけない光景を目にしてしまう。それは、死者の体を包丁で捌く人の姿。ユウたちが日々口にしていた食事は、死者の肉だったのだ。その夜を境にエレは行方不明に。圧倒的恐怖を前にしたユウは、真実から目をそらし普通の日常を続けることを選択する。

匣庭の葬送師

匣庭の葬送師

 しかし5年後、突如外の世界からやってきた「フェルト」という謎の男によって、ユウの世界は大きく開かれることに。旅に出たユウに待ち受けていた驚愕の真実とは――!?

〇「無知とは幸福なこと」というセリフが意味することとは?

 本作は、ライトノベル作家の綾里けいし先生と、漫画家でイラストレーターの京一先生がタッグを組んだ壮大なダークファンタジー作品。

 幼い頃から匣庭で育ったユウは、外の世界のことを何も知らない。じつはユウたちが生きる世界が呪われていることも、呪われた人間が葬送師によって送り出されることも……。

 ユウたち葬送師が「死者」だと思って送り出していた人間は、本当は皆生きていて、知らない間に人間を殺していた事実にユウは大パニック。

 さらに旅に出た途端「大罪人」のレッテルを貼られたユウは、フェルトとともに国家から命を狙われることに。一体何事? と思う間もなく、血みどろの戦闘が始まる。

 ただ世界のことが知りたくて匣庭から出ただけなのに、出たら出たでこんなに大変な目に遭うなんて、ユウも想像していなかったはず。次々飛び出す秘密に、読者もユウと一緒に悩んでしまう。

 気になる謎はたくさんあるが、特に印象的なのが中盤登場する覆面集団と、「聖女様」と呼ばれる女性。彼らの会話によると、どうやらユウは葬送師のなかでも特別な存在。命を狙われるのもそれが関係しているようだ。

 聖女様は「無知とは幸福なこと」という言葉をつぶやくが、じつはこれは、匣庭時代にユウを育ててくれた「先生」もまったく同じことを言っていた。つまり、聖女様と先生にも何かしらの繋がりがあるということ? 匣庭が作られた経緯も、この先なにか関係してきそうだ。

匣庭の葬送師

 続きが気になるストーリー展開が魅力のこちらの作品だが、もう一つの見どころはなんといっても、京一先生の描く軽やかで繊細な絵。グロテスクなシーンさえ美しく見せているのだ。子どもから大人になっていくユウの表情の変化にも注目してほしい。

 1巻のラストは、かつて魔王と戦ったことのあるフェルトがそのときに起きた出来事を思い出そうとするところで終わる。

 ユウとフェルトの旅は始まったばかり。二人の旅路の果てに待ち受けるものは果たして……次巻も楽しみだ。

匣庭の葬送師

匣庭の葬送師

文=中村未来

©綾里けいし・京一/白泉社