日本の田舎で同居するのは異世界の女騎士!? 平和なスローライフで彼女が見つけるものは?『田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている』
公開日:2023/9/29
ある田舎町でスローライフを送る主人公。彼と同居しているのは金髪美女で、異世界から来た女騎士だった――。
『田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている』(音羽さおり:漫画、錬金王:原作、柴乃櫂人:キャラクター原案/講談社)の舞台は現代日本。本作は、言わば“逆”異世界転移ものだ。
物語は一人暮らしの青年、三田仁(みたじん)が自分の田んぼで鎧を身に着けた女性を発見したところから始まる。なんやかんやあって、彼女は仁の家に従業員として住む、つまり同居することになる。
脱サラ青年と異世界女騎士の田舎暮らしがスタート
人口が3万に満たない田舎町に住む三田仁は、脱サラし農業を始めてから4年になる。ある日、彼は自分の田んぼに女性が倒れていることに気づく。行き倒れにしても彼女には違和感しかなかった。まずこの田舎町には珍しい、金色の長い髪と透き通ったエメラルドのような瞳を持つ、一見は外国人だったからだ。さらに鎧に身を包み、剣を携えていたのである。
目を覚ました彼女はラフォリア王国の剣士・セラフィム(以下、セラム)と名乗った。最初は彼女をコスプレイヤーだと決めつけていた仁は、彼女がこの世界の人間ではないと信じるようになる。なぜなら日本の(というか現代世界の)作法や常識、食べ物やインフラにいたるまで、まるで初めて見聞きしたような反応をし、それが嘘をついているようには見えなかったからだ。さらにセラムは重たい鎧を身に着けたまま跳躍し、猛スピードで走ることができた。この身体能力の高さは仁の理解を超えていた。
セラムもまた、この場所が自分のいた世界とは違うことを認識する。今ここにいる理由も戻る方法もわからず、行き場のない彼女は仁の申し出で同居を始めることに。脱サラ青年と女騎士のスローライフはこうして始まった。
戸惑いながらもセラムは仁の農作業を手伝い、採れたての新鮮野菜を食べ、元いた世界とのギャップにいちいち驚くのだった。
ただ、観光地でもない田舎町でセラムは目立つ。しかも独身男性の家に寝泊まりしているのだ。セラムは周囲に仁との関係を聞かれ、とっさに「自分は仁の嫁」だと言ってしまい……物語は新たな展開を迎える。
くるくる変わるセラムの表情に注目!彼女は幸せになれるのか?
ここまで書いてきた通り、本作の魅力は異世界人・セラムが現代日本に戸惑うおかしみだ。特に注目してほしいのは、くるくると変わるセラムの表情である。
日本の文化や常識が理解できずに戸惑う顔。農作業や料理が上手くできずに恥ずかしがる顔。仁と思わず近づきすぎて照れる顔。料理に舌鼓を打ち、お菓子の甘さを堪能している顔……。どれもかわいすぎて、とても血なまぐさい世界の女騎士だったとは思えない。特に、食べているときの表情は必見だ。米の甘み、トマトの果汁、魚の脂の美味しさに感動する顔が大ゴマになっている。セラムの反応を通して、田舎の良さや新鮮食材の美味しさ、そして日常のささやかな喜びが魅力的に描かれていく。
また、周囲に仁の嫁だと認識されるようになったセラムが、自分で名乗っておいて仁に対して照れ照れになっていくのも見逃せない。同居シチュエーションはラブコメの王道である。29歳の大人である仁であっても意識せざるをえない。読んでいくと誰もが、やきもきしてしまうはずだ。
異世界転移ものは「元いた世界でできなかったことを異世界で叶える」というストーリーが多い。本作は異世界で戦いにあけくれていたセラムが、平和な日本で生きようとする物語だ。はたして彼女はこの世界で何を叶えるのだろうか。
物語のこれからの展開は?なんて急いで考察していくのは野暮かもしれない。逆異世界転移のスローライフストーリーなので、ゆっくりと見守っていけばいいのである。
文=古林恭