発売後即重版決定!長濱ねる初のエッセイ集『たゆたう』インタビュー&試し読み公開!

小説・エッセイ

公開日:2023/10/6

『たゆたう』角川文庫660円(税込)
『たゆたう 特装版』KADOKAWA2970円(税込)

 2023年9月1日、アイドル活動を経て新たなスタートをきった長濱ねるさんが日々の出来事を誠実に綴った初のエッセイ集『たゆたう』が発売となった。発売直後から話題となり、この度重版が決定!10月1日からは文庫の電子書籍も発売を開始する。

そんな初エッセイ集『たゆたう』に長濱さんが込めた思いとは?インタビューに加え、次ページではエッセイ1話分の試し読みも公開!

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年10月号からの転載になります。

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取材・文:イガラシダイ

初めてのエッセイ集は 自分にとっての〝楔〟になる

 長濱さんは本誌にて毎月、エッセイを紡いできた。忙しい日常の合間を縫うようにして書いてきたエッセイは、その一つひとつが長濱さんの軌跡だ。そんなエッセイが満を持して、一冊の書籍になった。タイトルは『たゆたう』。自分の立ち位置がわからず、常に悩んできた長濱さんらしいタイトルを冠したデビュー作だ。

「こうして一冊になった本を見たとき、書き続けてよかったと思いました。連載時、私が書く意味はなんだろう……と悩むこともあって。書けば書くほど、尊敬する作家さんたちの才能を痛感しましたし、SNSで文章を発表して注目を浴びている方も大勢いる中、正直、書くことが好きかどうかすらわからなくなる瞬間もありました。でもやめなかった。どんなにネガティブな気持ちになったときも、とりあえず書き続けてみようと。その結果、本にすることができてとても感動しています」

 今回のエッセイは、長濱さん曰く「楔になるような作品」だ。情報が溢れ、猛スピードで流れていくような現代のなか、自らが歩んできた3年という月日を無かったことにしない。その間、たくさん悩み、泣いてしまうような出来事もあったが、それも正直に綴ってきた。だからこそ、それらを一冊にまとめることが長濱さんにとっての〝楔〞になるのだろう。

「あらためて過去のエッセイを読み返したとき、私は人との関わりについてたくさん書いてきたことに気付きました。人と関わることは怖いし苦手ですが、それでも心のどこかでは人間が好きで、他者と分かり合いたいと思っている。人に期待してどこか希望があるはずだと諦めきれず信じる自分がいることに気付かされました。でも、そういう人との関わりのなかで感動した瞬間のことを忘れていることもあって、読み返しては『なぜ忘れていたのか』とハッとしました。だから、書いたものが形に残るのはうれしいです。きっとこれから先も何度も読み返すでしょうし、5年後、10年後に、昔の自分が出会ってきた人や言葉をちゃんと思い出すための本になりそうだと感じています」

 長濱さんは軽やかに話すが、エッセイの執筆は想像以上にしんどいことの連続だった。頭のなかにあることをうまく表現できず、また、誰かを傷つけてしまうのではないかと思うと途端に怖くもなった。

「さまざまな人と出会うなかで、自分にとっての〝当たり前〞が当たり前ではないと思うようになり書くことにもためらう時期もありました。『私は恵まれているからこう感じるのかもしれない』『みんなはこんなこと考えないのでは?』『綺麗事を言っているだけではないだろうか』というように、社会にはいろんな人がいるんだと知れば知るほど、自分の視野の狭さを思い知って、書くことが難しくなっていきました。自分の文章で人を傷つけたくないと思うと同時に、それはうぬぼれているだけなのでは、とも思えました。私も何らかの当事者であって、当事者にしか書けないものがある。何でもかんでもすくい上げようとするのではなく、私は私にしか書けないことを書けばいいのだと。それを読んで共感してくれる人もいるはず。だからいまは、自分が感じていることに責任を持って本音で書いていこうと考えています」

覚悟を持って書き続ける その先に見据える未来とは

 自分が感じていることを、自分の責任の下に書く̶̶。そんな長濱さんの覚悟にも似た思いが象徴される一編のエッセイが、単行本版に収録されている。「*」というタイトルのものだ。そこに綴られるのは、アイドル時代の長濱さんが巻き込まれてしまった〝炎上騒動〞について。図らずも〝加害者〞とされた長濱さんの素直な思いが、そこには表れている。それを書くのは相当怖かっただろう。今さら言及する必要なんて無い。そんなふうにも感じられるが、それでも筆を執ったのには理由があった。

「本当は書くかどうかすごく迷いました。一般的に何か問題が起こったとき、『触れないようにしよう』『静観しよう』という風潮があります。私も、わざわざ触れなくてもよかったのかもしれません。それでも書いたのは、読者に対して嘘をつきたくなかったから。これからもいろいろなお仕事をしていきたいと思っているからこそ、うやむやにはできない。私の思いを口ではうまく伝えられないので、文章にすることが最善だと思いました」

 知られたくないことを、自ら文章にして発表する。長濱さんのその姿勢は、多くの読者の心に響くはずだ。そしてそのとき、同時に芽生えるのは「これから先も、この人の正直な文章を読み続けたい」という思いではないだろうか。長濱さんの文章には、そう思わせる不思議な力がある。

「私は読書を通じて、そこにある言葉に救われてきました。そう言いつつも、言葉に呪われてきたことも多かった。幼い頃に言われたことや仕事場での誰かの一言が気になってしまって、新たな一歩を踏み出せない瞬間もたくさんありました。だからこそ、お守りになるような言葉を大切にしていて。言葉が人をがんじがらめにすることも知っているから、言葉によって誰かを祝福したい。『あなたは存在しているだけでいいんだよ』と伝えたいと強く思っています」

 そんな思いを抱きながら生み出される文章は、だからこんなにも心の琴線に触れるのだ。覚悟を持ってデビューした書き手の目に映っているのは、この先も書き続ける未来だ。書くのはしんどい。だけど、これからもやめない。

「エッセイの連載を3年続けてきて、次は小説にチャレンジしてみたいです。執筆を始めた当初は、私に小説が書けるはずはないと思っていたのですが、なんとか書くことを続けてこられて、やっとそういう行き先もあるのかもしれないと考えられるようになりました」

 実は本作には、掌編のフィクションも一編だけ収録させた。それを書いたときに感じた手応えも、長濱さんの背中を押している。

「フィクションを書いてみたら、エッセイよりも筆が止まりませんでした。架空の世界のことを書くと気持ちが楽になって。もちろんとても難しい作業ではありましたが、自分の気持ちを乗せてもいいし、真逆のことを書いても構わないってなると、すごく気軽に文章を書くことができました。なので、
いつか小説は書いてみたいです」

 書き手としての夢は膨らんでいくばかりだ。

「そのためにも、まずは『たゆたう』をたくさんの人に読んでいただきたいです。その上で、〝周りの大切な人に紹介したい一冊〞になってくれたら本当にうれしいです」

ながはま・ねる● 1998 年、長崎県生まれ。幼少期は五島列島で過ごす。2015 年にけやき坂46(現在の日向坂46)として活動を始めたのち、欅坂46 のメンバーとしてデビュー。19 年に同グループを卒業。卒業後は『ダ・ヴィンチ』にてエッセイを連載。執筆業の傍ら、俳優業、バラエティ番組、CM 出演など幅広く活躍。