読者のホラー体験談をフクロウが語る怪談漫画。読者が遭遇した不可解な「もの」は幽霊? 妖怪? それとも……

マンガ

PR 公開日:2023/10/27

水ムーちゃんねる 隣の晩怖談
水ムーちゃんねる 隣の晩怖談』(水村友哉/ヒーローズ)

 実話怪談と聞いて思い出すことがある。私は今までの人生で一度だけ、論理的に説明することができない経験をしたのだ。

 30年ほど前のある日、同じ保育園の友だちの家に泊まった。友だちの家は2階建てで、私と友だちは2階にある来客用の寝室をふたりで使うことになった。来客用といっても、ここ数年はお客さんが泊まっていないらしく、友だちの母親は一度寝室を掃除してから私たちを部屋に入れてくれた。

 幼児にとって友だちとのお泊まりはとても楽しいイベントだ。遊び疲れた私と友だちがベッドで並んで寝ていると、友だちの母親がカーテンを閉めに来たのがわかり、続いてドアを締める音がした。私は起きて目が冴えてしまった。大人もいなくなったし友だちと遊ぼう、そう思って窓側で寝ていた友だちを起こそうとした時、黒くて大きな影がカーテンに映っていることに気づいた。

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 窓の外に誰かいる?

 すでに友だちもその家族も、自分の部屋で寝ているはずだ。しかしそのカーテンの影は、明らかに人の形をしていた。カーテンを開けてしまえばいいのに、なぜか怖くてできなかった。影をじっと見ていると、その影は動き始めて、右横に向かって消えていった。私は思い切って立ち上がり、友だちを起こさないように窓際に行ってカーテンを開けた。窓の外には誰もいなかった。そしてここが2階であることに少ししてから気づいた。

水ムーちゃんねる 隣の晩怖談

 実話系ホラーコミック『水ムーちゃんねる 隣の晩怖談』(水村友哉/ヒーローズ)は、エピソードごとにいろいろな人の実話怪談が描かれている。個人的に怪談に出てくるのは幽霊だというイメージがあったのだが、そう呼んでいいのかわからないものも多数登場する。初めて本作を読んだ時、私の経験も実話怪談の部類に入るのかもしれないと思った。気づいたのは大人になってからだが、常識から考えて、カーテンの外にいる人影があんなにくっきりとカーテンの内側に浮かぶはずがない。

 本作のエピソードに出てくる、得体のしれないものたちはいつも突然現れ、読者をぎょっとさせる。たとえば映画館のエレベーターで起きたエピソードでは、ナイトシアターを楽しんだ女性が友人と共にエレベーターに乗っていると、首のもげた人の形をした何かが急に入ってくる。

水ムーちゃんねる 隣の晩怖談

 幽霊だと思いきや断定はできない。なぜなら過去にその映画館で事件や事故が起きたという情報はないからだ。「本当に首がもげてしまった実在の人物なのでは」という想像もできる。

 また、本作には作者自身の実話怪談も収録されている。作者が漫画家のアシスタントをしていたころのエピソードでは、作者が悪夢や金縛り、怪奇現象に苛まれる姿が描かれている。

水ムーちゃんねる 隣の晩怖談

水ムーちゃんねる 隣の晩怖談

水ムーちゃんねる 隣の晩怖談

 彼らはどうして人を脅かすのか。どのエピソードも実話なので落ちがない。だからこそ現実感も増して、「あの怪しげなものは実は……」と勝手に想像をふくらませてしまう。私が二度と謎は解けないとわかっていながらも、幼少期に見たカーテンに映る影の正体について今もあれこれ考えてしまうように。

 最初と最後に掲載されている作者による解説も必読だ。映画館のエピソードなら今もその映画館があることが明かされ、金縛りのエピソードでは、当時、自分が疲れていたことを取り上げて「疲れる」の語源は「憑かれる」だといわれていると作者は述べる。

水ムーちゃんねる 隣の晩怖談

 現在、X(旧Twitter)のアカウント「隣の晩怖談〜ばんこわだん〜」(@bankowadan)では、読者の体験談を募集している。読者それぞれの身に起きた実話怪談をDMで送ると、漫画化される可能性があるそうだ。科学では解明できない不可解な出来事。もしかするとそれは、誰の身にも起こりうることなのかもしれない。

文=若林理央