初恋相手から夫の殺害を依頼された…? 『逆転美人』作者が描く、前科二犯の泥棒を襲うどんでん返しとは
PR 公開日:2023/10/11
予想を上回る逆転劇でミステリーファンを唸らせた『逆転美人(双葉文庫)』(藤崎翔/双葉社)は、ラスト1ページまで読み応えのある小説。藤崎氏がちりばめた仕掛けの意味に気づいた時、思わず感嘆の声が漏れた方も多かったことだろう。
そうした衝撃を再び得られるのが、『逆転泥棒(双葉文庫)』(双葉社)。今回の逆転劇は、ひとりの泥棒が主人公。ひょんなことから初恋相手と偶然再会し、彼の人生は変わっていく。
■前科二犯の泥棒が初恋の相手を救うために「殺人」を計画!
前科二犯の泥棒・善人(ヨシト)は出所後、泥棒仲間であるスーさんのもとへ。そこでおすすめの物件を教えてもらい、後日、盗みに入る。真新しく、見るからに金持ちそうなその住宅には予想以上の金銭や高級品があり、善人は浮足立った。
だが、次第に善人は妙な気分に。なぜか、懐かしさがこみ上げてきたのだ。もしかして、以前、盗みに入ったことがあったのだろうか。モヤモヤしながら本棚に目をやった時、飛び込んできたのは、自身の出身校の卒業アルバム。なんと、善人が空き巣に入ったのは、初恋相手・木村マリアの自宅だったのだ。
懐かしさを感じたのは、記憶の中に残っていたマリアの香りを感知したから。善人はマリアに見つかることなく、盗みを終えたものの、会いたい気持ちが募ってしまい、後日、再びマリア宅へ。家の周辺をうろついていると、マリアから話しかけられ、偶然の再会だと見せかけることができた。
近況報告と思い出話に花を咲かせる中、善人が知ったのは幼馴染で自身にとって最大のライバルであったタケシとマリアが結婚したというショックな事実。もう、未練は断ち切ろう…。そう思うも、「夫と上手くいかない」と不満を漏らし、気のある素振りをするマリアに善人の恋心は再び燃え上がる。
そんなある日、マリアから夫を殺してほしいと依頼され、善人は驚愕。一度は受け流すも、マリアがDVを受けていることを知り、タケシの殺害を決意する。善人の計画は、自殺に見せかけてタケシを殺すこと。ところが、その先に待ち受けていたのは、まさかの結末だった…。
『逆転美人』のようなスリルが得られ、予想だにしない涙も流れる本作は、驚きと感動が入り混じる逆転物語。タネ明かしの先で読者は言葉を失い、読み進めてきたページをさかのぼりたくなるはずだ。
なお、本作には善人らの学生時代を振り返る回想パートが盛り込まれているのだが、そこには平成ならではの青春が詰め込まれていて、とてもエモい。ゲームボーイやミニ四駆に熱中した大人世代は、あの頃の自分や世間を騒がせたニュースなどを思い出し、懐かしさがこみ上げてくることだろう。また、回想パートでは現実の厳しさに打ちひしがれながらも、それぞれの人生を歩む登場人物たちの過去が心に刺さりもする。
苦しい「今」はやがて昔の話になるが、そうした過去と向き合うのは、とても勇気がいることだ。けれど、そうした経験も全て、今の自分を形成している要素。だから、心をすり減らした過去の受け止め方も自分なりに見つけ、明るい未来に繋がる道を探してほしい――。そんなメッセージも、本作に込められているように感じ、胸が温かくなった。
ミステリーファンはもちろん、乗り越えられない過去を引きずっている方にもぜひ、本作を手に取ってほしい。
文=古川諭香