宮部みゆき新刊、15年以上続くシリーズ第9弾。少女の執念から生まれた土人形など、恐ろしくも温かい4つの物語
更新日:2023/11/21
このまま三島屋シリーズは終わってしまうのか――
前作の内容から、そう感じたファンは多かったはず。もちろん僕もその1人であり、「叶うことなら次回作をぜひ……!」と心から願っていた。その思いが通じたとはにわかには信じがたいが、2023年7月に「三島屋シリーズ」第9弾『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』(宮部みゆき/KADOKAWA)が発売された! 「三島屋シリーズ」とは、宮部みゆき先生によって書かれたホラー時代小説のこと。第1弾は2008年7月に発売され、いまもなお続く長編作品である。
本作の主人公は、江戸は神田にある袋物屋「三島屋」の次男・富次郎だ。彼はこの場所を訪れる人々からさまざまな話を聞く役「聞き手」を担っている。本作の語り手から紡がれる4つの話は、行き場の無い女たちが集う庵の土から生まれた不動明王、代官による村への悪行に見舞われた少女の執念から生まれた家族を守る土人形、描きたいものを自在に描けるがその持ち主と周りの者の生気を吸い取ってしまう筆、身寄りの無い子にとっては極楽のような里に大噴火が襲った話と、内容はさまざま。
ここだけを見ると邪念や無念を含んだゾクッとする怖さを感じる、気味の悪い話ばかりだと思うだろう。しかし読み進めると、現代まで語り継がれている昔の日本人のほっこりとした優しさや、あつかましいほどの義理人情も同時に感じられるはずだ。内容はフィクションだが、悲劇の中で登場人物たちが放つ言葉や思いは、現代を生きる僕らの心にもグッと刺さるものがある。
もちろん、聞き手の富次郎の心情にも変化があらわれる。もともと絵師を志しており、座敷を訪れた客の胸にしまってきた怖い話や不思議な話をを聞いた後、彼は必ず話をもとにした墨絵を描いていた。そんな彼は、第3話「自在の筆」で絵師になる夢をあきらめようとする。しかし第4話「針雨の里」の話では心に揺らぎが生じる。一度置いた筆を、富次郎はまた握るのか。本作ではそこまでは書かれていないが「もしかするとこの続きは第10弾で書かれるのかも……? はたまた初代聞き手・おちか、2代目富次郎の意志を受け継ぎ、他の誰かが聞き手を務めるのか?」と色々と想像が膨らむ。
小さいころから人の話を聞くのが昔から好きで、特に未体験な話、自分とは無縁の場所で起きた出来事、良くも悪くもあまり世に出ることのない話が出たときは、とことん聞き役になる僕がこの作品の中にいたら、きっと「聞き手になりたい」と立候補するだろう。現代にもそういう仕事があったらいいのに……。
個人的な見解だが、この「三島屋」シリーズは本作から読み始めても十分に楽しめるはずだ。本作をきっかけに第1弾から読み進めてみるもよし、まずは第1弾から読み進めてじっくり第9弾を目指すもよし。どちらの進め方であっても、読み終わるころには宮部みゆき先生ファンになっているはずだ。
文=トヤカン