アンデルセン『裸の王様』作品解説。空気を読みすぎて、間違いを指摘できなくなっていませんか? 権力社会をユーモラスに描いた童話
公開日:2023/10/26
『裸の王様』は、デンマークの童話作家アンデルセンの手によって翻案された童話です。アンデルセンの作品のなかでも特に有名な作品のひとつで、真実が見えなくなった権力構造をユーモラスに風刺したストーリーになっています。本稿では、アンデルセン『裸の王様』の作品を分かりやすく解説し、登場人物やあらすじをご紹介します。
<第40回に続く>
『裸の王様』の作品解説
『裸の王様』は、デンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンによって翻案され、1837年に発表された童話です。スペインの王族であるフアン・マヌエルによって書かれた童話集『ルカノール伯爵』に所収された童話がもとになっています。
アンデルセンの作品のなかでは初期の作品で、ユーモラスな作風で人気が高く、アンデルセンの代表作のひとつとしてしばしば挙げられる作品です。
『裸の王様』の主な登場人物
王様:ある国の王様。とてもおしゃれで、おしゃれのことばかり考えている。
2人の嘘つき:2人の詐欺師。王様のおしゃれ好きな性格を逆手に取って、悪事を働く。
大臣、役人:王様に代わって、新しい服を見に行く。
『裸の王様』のあらすじ
ある国に、とてもおしゃれが好きな王様がいました。彼はありったけのお金で服や靴、大事な会議もそっちのけで考えることといったらおしゃれのことばかりでした。
ある日、2人の嘘つきがお城にやってきて「私たちは世にも美しい布を織る職人でございます。その布は、ばか者には見えないのであります」と言いました。
それを聞いた王様は2人の嘘つきに大金を手渡して、服を作るように言いました。2人の嘘つきは用意された仕事場で働き始めました。けれども本当は、空っぽの機(はた)に向かって布を織るふりをしているだけなのでした。
それから何日か経ったある日。王様はどれくらい服ができたかを確かめるため、大臣や役人に見に行かせました。しかし、大臣にも役人にも、布らしきものは見えませんでしたが「あれほどに美しい布は見たことがありません」と伝えました。
噂は城のなかでもどんどん大きくなり、王様は、とうとう自分で見に行くことにしました。しかし、王様にも布は見えませんでした。布が見えないことが皆に知られたら、王様ではいられなくなると思って、王様も布が見えるふりをすることに。そこへ家来の1人が言いました。「この布で作った服を、今度のパレードでお召しになってはいかがですか?」王様は「おお、それは良い。では、急いで作るのだぞ」と嘘つきたちに言いました。嘘つきたちは、さっそく忙しく働いているふりをしました。
やがてパレードの朝が来ました。「この着物は、どれもクモの巣のように軽いのですよ」2人の嘘つきは嘘をつきながら、王様の服を脱がせて、服を着せるふりをしました。「なんと美しい! よくお似合いです」と家来たちは口を揃えて言いました。
パレードが始まると、王様は胸を張ってお城を出て歩いていきました。通りに集まった人々は、服が見えないことを気づかれないように「新しい服はなんと珍しいのでしょう!」「王様によくお似合いだ」などと言いました。
そのとき、1人の男の子が言いました。「でも、王様は裸だよ」その子の父親は大慌てになりました。しかし、人づたいに子どもの言ったことが伝わっていき、ついに人々は「王様は裸だぞ!」と声を上げました。
王様は大弱りになりながらも、今さらパレードをやめるわけにはいかなかったので、今まで以上にもったいぶって歩きました。
『裸の王様』の教訓・感想
権力者のために見えないものも見えると言ってしまう人間心理を滑稽に描いた作品です。現代の社会でも頻繁に起こっている問題を、アンデルセンはユーモラスに、皮肉的に描いていますね。