紫式部『源氏物語 六帖 末摘花』あらすじ紹介。センスも美貌もないけど源氏の恋人!? 赤鼻の姫君の物語

文芸・カルチャー

更新日:2024/3/13

源氏物語』といえば古典の名作として有名です。教科書で一部分を読んだことがあるけど、内容は詳しく分からないという人も多いのでは? 本稿では、第6章「末摘花」のあらすじを分かりやすく簡潔にご紹介します。

<第7回に続く>
源氏物語 末摘花

『源氏物語 末摘花』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「末摘花」で登場するのは、源氏物語では珍しくあまり美人とは言えない姫君。その上、会話や手紙のセンスもない女性が、源氏の恋人? と驚くかもしれません。実は、源氏も内心はあまり魅力を感じてはいません。「なんでこんな女性と契ってしまったのか」と後悔したり、「赤い鼻を思い出すから紅の花を見たくない」と言ったり。赤鼻の女の絵を描いて、紫の君とふざけ合いながら「見るのも嫌だ」と言うあたりは、作者・紫式部の毒気が見え隠れします。しかし、そう言いながらも見捨てることなく彼女の世話をする源氏は芯の部分では優しさを持っているのかもしれません。

これまでのあらすじ

 病を患った源氏は、加持祈祷のため訪れた場所で、美しい少女に出会う。恋い慕う継母・藤壺の宮の血縁であるというこの少女を気に入り、自らの手元において養育することにする。その頃、病がちになり里下がりをしていた藤壺は、強引に迫る源氏と再び関係を持ち、源氏の子を身ごもってしまう。

『源氏物語 末摘花』の主な登場人物

光源氏:18~19歳。

頭中将:源氏の親友。末摘花をめぐって、源氏と競い合う。

大輔の命婦:常陸の宮邸に出入りする女房で、源氏に末摘花の話をする。源氏とは乳母兄妹。

末摘花:故常陸の宮の末娘。内気な性格。

紫の君:10~11歳。後の紫の上で、源氏の養育を受ける。

『源氏物語 末摘花』のあらすじ​​

 夕顔を忘れられずにいた源氏は、代わりとなるような可愛らしく控えめな女性を求めていた。ある時、乳母兄妹の大輔の命婦からひとりの高貴な姫の話を聞き、興味を持つ。亡くなった常陸の宮の末娘で、時折琴を弾きながらひっそりと暮らしているという。常陸の宮邸に出入りする命婦に連れて行くよう迫るが、命婦はなぜか姫のもとに源氏を連れて行くのを渋っていた。やっとのことで邸宅に忍んで行き離れた部屋で琴の音を聞いていたが、いいところで演奏は打ち切られた。その晩は命婦の助言もあり、姫には会わずに邸を出たが、そこで友人の頭中将に跡をつけられていたことに気がつく。面白半分で、源氏がどんな相手と遊んでいるのか確かめてやろうという魂胆だった。恨めしく思う源氏だが、結局ふたりはふざけ合いながら帰っていった。

 その後、源氏と頭中将は競うように姫に文を送り続けたが返事はない。頭中将に負けるのは面白くないと、源氏はますます熱心になる。返事がないのは男女のやりとりに慣れていないからだと考え、夕顔の純真さと重ね合わせ、まだ見ぬ姫に思いを寄せた。

 返事が来ないことに痺れを切らした源氏は、とうとう姫のもとに忍び込み契りを交わすが、姫の着ているものや雰囲気は年寄りじみていてセンスがなく、会話も弾まない。あまり魅力を感じないものの、何度か通ううちしっかりと姫の顔を見たいと思うようになる。

 共に庭を眺めようと誘いだし、夜明けの光の中でその姿を見て愕然とする。胴が長く、痩せて骨ばっているのは痛々しいほどで、何よりも鼻が目についた。驚くほど長い鼻は、先のほうが少し垂れていて赤く色づいている。その姿に落胆するものの、この姫との関係を我慢できるのは自分くらいだろうと思い、貧窮した姫の生活の援助を決意する。「魅力のない赤い鼻の末摘花となぜ契ってしまったのだろう」という歌で、命婦に愚痴を言うものの、その後も見捨てることなく関係は続いていった。

 一方で、紫の君はますます美しく成長し、赤い鼻の女の絵を描いてじゃれ合い、兄妹のように仲睦まじく過ごすのだった。