レオナルド・ディカプリオ×マーティン・スコセッシで映画化。油田の権利を巡って起きた先住民殺人事件の謎に挑む

文芸・カルチャー

更新日:2023/11/10

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』(デイヴィッド・グラン:著、倉田真木:訳/早川書房)

『タクシードライバー』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』など、代表作を並べ始めたらきりがない巨匠マーティン・スコセッシ監督ですが、新作の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が10月20日から公開されます。この記事では原作のノンフィクション歴史小説『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』(デイヴィッド・グラン:著、倉田真木:訳/早川書房)をご紹介します。

 19世紀終わり、アメリカ南部オクラホマ州に住む先住民・オセージ族が住む土地は、豊富な原油を埋蔵していることがわかった。油田を開発する権利を石油会社に売ることで、オセージ族は巨万の富を手にする。そこに抜かり無く目をつけた白人たちは、オセージ族に関わり始め、やがてその金欲は殺意へと変わっていく。

 そして1920年代、「恐怖時代」と呼ばれる時が訪れる。オセージ族20人以上が次々と殺されていくが、犯人は捕まらない。被害者遺族たちは私立探偵を雇うも、良い働きをする者はおらず真相は解明されない。政府当局も、先住民の人権を無視する白人で占められている。事件が全米で注目を集め始めたとき、現在のFBI(連邦捜査局)の前身となる組織「Bureau of Investigation」が動き出す……

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 映画では、白人のアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)とオセージ族のモリー・カイル(リリー・グラッドストーン)とのロマンスが前面に出ていますが、小説はどちらかというと題名にもある通り、FBIという組織が、いつ、なぜ、どうやって現在のような知名度・ポジションを得るようになったのかのルーツを辿っています。当時は、組織名に連邦(Federal)が付いておらず、科学的な捜査手法も確立されていない状態で、警察制度もまだ十分に整備されていませんでした。

法執行官はこの時代、まだ素人同然だった。訓練学校に通った者も、指紋や血痕パターンの分析など新進の科学的捜査手法に通じている者も、ほとんどいなかった。とくに辺境の法執行官はそもそも、銃撃戦や追跡のほうが得意だった。期待される役割は、犯罪を未然に防ぎ、札付きのガンマンをなるべく生きたまま、必要なら殺しても捕らえることだった。

 この注目事件を解決して、権威を高めようと局長官のエドガー・フーバーは目論みました。そして、彼が送り込んだ捜査官たちは良い働きをして、FBIが誕生する流れが醸成されたのですが、事件自体には現代に至るまで多くの謎が残されているといいます。

この謎を解こうとする取り組みは、ことごとく頓挫した。匿名の脅迫のせいで、治安判事は直近の殺人事件に関する審問の中止を余儀なくされた。治安判事は恐怖におののき、事件が話題になるだけで執務室に引っ込み、扉にかんぬきを掛けるほどだった。新任の郡保安官は、犯罪を捜査するふりさえ止めた。

 著者は2017年に出版された本書の執筆に際して古い捜査記録を丁寧に読み込み、新たな真相をも浮き彫りにしていきます。そのため、本書は20世紀初頭から2010年代までという時間幅の描写が含まれています。著者は当時生きていなかったのに、なぜ現場を目の当たりにしているかのように描写ができるのか不思議ですが、題名の付け方で少し納得がいきました。

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の改題前のタイトルは「花殺しの月」と言いますが、これはオセージ族の言葉で5月を指します。4月に咲く小さな花が、5月になると背の高い花に枯らされてしまうことからそう呼ばれているといいます。おそらく、その光景というのは、まだ見ることができるのではないでしょうか。きっと著者はそうした小さな手がかりからでも、無限大の想像力を発揮させられる方なのでしょう。本書を手にとって、その世界にぜひ浸ってみてください。

文=神保慶政