謎のグルメアプリから与えられた使命は、偉人たちを成仏させること!? 大和田秀樹が描く、偉人×グルメ×ギャグの「偉人メシ」漫画!
公開日:2023/10/20
飲食店を探す際、今や欠かせない存在となっているグルメ系サイトやアプリ。探しているエリア付近のお店を条件つきで絞ることができ、写真も豊富で、公式サイトよりも情報が充実していることも少なくない。何気なく見ているうちに、気になるお店のストックが大変なことに……なんて人も多いのではなかろうか。『偉人が4.0をつけたメシ屋に行ってみた。』(大和田秀樹/KADOKAWA)は、そんなグルメアプリから始まる、ちょっと不思議で笑えるグルメギャグコメディだ。
主人公は、東京の片隅で働く根間くるみ。くるみは仕事の帰り、何かおいしいものでも食べて帰ろうとグルメサイトをチェックしようとスマホを見る。しかしそこで、入れた覚えのない「メシにゃび」というアプリに気づき、導かれるままに天ぷら屋さんへ。
すると店の前には、眼鏡をかけたおじさん顔の、可愛くない人面猫が浮いていた。その人面猫・にゃびねこは、くるみに「この店の中に“食”に未練を残した死者の霊がさ迷っておる」「その者を成仏させてやってほしいのじゃ」と頼んできて――。
最初は断っていたくるみだが、にゃびねこにまるめ込まれ店内へ。するとそこには、凄まじいオーラを発しながら鎮座している偉人・徳川家康の霊がいた。このまま放っておけば、家康は東京のタタリ神になってしまうという。そこでくるみは、言われた通りに鯛の天ぷらを注文。そして勢いに乗って天ぷらの盛り合わせとビールも堪能し、「わしにも食わせろォォ!!!」と激怒する家康に天ぷらを食べさせて見事成仏させたのだった。
くるみの食レポレベルの高さとおいしそうに食べる様子、それから霊への影響力の強さを見せつけられたにゃびねこは、「こやつなら……わしの願いを果たしてくれるやもしれん!!」と、改めてくるみを相棒として意識し始める。その後もくるみは、「メシにゃび」とにゃびねこに導かれるままに坂本龍馬や夏目漱石、吉田茂など様々な偉人の霊が求めるグルメを堪能していくことに。
歴史上の偉人が登場するグルメ作品というと、何となくお堅い雰囲気を想像するが、本作品にはそうした堅苦しさは一切ない。偉人たちは、あくまで果たせなかったグルメへの熱い思いから成仏できずにいる、という立ち位置で、それゆえにとにかく食への強い思いをぶちまける。そんな偉人の霊を「この人は知ってるー!!」くらいの軽いテンションで受け流し、必要以上に食を満喫するくるみの能天気っぷりも本作の見どころの一つ。
また、登場する偉人たちはもちろん、語られる逸話は史実で、すべて実在するお店が登場する。ギャグ漫画としての面白さやテンションを保ちながらも、重くなりすぎない程度にがっつりと雑学を入れ込んでくる技術は、ギャグ漫画や歴史漫画を得意とする大和田秀樹氏ならではだ。
偉人たちとくるみの温度差が生み出す、噛み合ってないようで噛み合っている絶妙な空気感、それを客観視しながらツッコミを入れるにゃびねこのシュールさに、ついついページをめくる手が止まらなくなってしまった。
また、ゆるくふわっとした印象のくるみとは対照的な、クールでミステリアスな雰囲気の妹・ゆいの存在も気になる。くるみ以外の人には見えないはずのにゃびねこや偉人の霊が、なぜかゆいには見えている様子で――。
さらに第5話ラストでは、にゃびねこが「メシにゃび」で偉人たちを成仏させている理由も明らかになる。くるみたちは、これからどんな偉人たちに出会い、どんな店のどんな料理が登場するのか。そしてにゃびねこは、無事本当の目的を果たすことができるのか。引き続き、本作に注目していきたい。
文=月乃雫