頼りがいのない息子と車椅子生活の妻を支えるスーパーシニア! 92歳のじいさんから学ぶ「人生の受け入れ方」
PR 更新日:2023/10/27
歳を重ねることは人間として自然な現象であるのに、時折、未来への不安が募り、心が暗くなってしまうことがある。そんな時、心を明るくしてくれるのが、年老いてもなお、気力と活力に満ち溢れるスーパーシニアの日常を描いた小説『じい散歩』(藤野千夜/双葉社)だ。
本作の主人公・明石新平は飄々とした散歩好きのシニア男性。常識が通じず、いつまでも親のすねをかじり続ける3人の息子たちに呆れながらも、“今を生きること”を楽しむ。
新平の前向きな姿はシニア世代だけでなく、老いに対する不安や恐怖を抱く人の心にも刺さり、同作は多くの読書好きから愛された。
そんな人気作の続編が、ついに登場。シリーズ2作目となる『じい散歩 妻の反乱』(双葉社)には92歳になり、少しずつ変化しつつある明石家の日常や新平の心境が描かれている。
■92歳のスーパーシニアが老々介護に挑戦! その先で見た“妻の反乱”とは?
もともと健康オタクな新平の日常は、さらにパワーアップ。健康食やオリジナルの健康体操に加え、健康器具を使った開脚運動も日課となった。
仕事のことで文句を言い、浮気を疑って新平を責めたててきた妻の英子は2年半前に倒れ、車椅子生活を送っている。介助をするのは、新平の役目。老々介護を知っていても、3人の息子たちは相変わらず頼りなく、自由奔放だ。
長男の孝史は英子が倒れてからは以前より家のことを手伝うようにはなったものの、引きこもり生活は継続中。次男でフラワーアーチストの建二は自分のことを「長女」だと言い、見た目も女性に。頼めばあれこれ手伝ってくれるが、自分から率先して何かをすることはなく、問題事の処理は父親任せである。
そして、三男の雄三は一番の問題児。イベント企画会社を興して借金を抱え、新平に泣きついた過去があるのに、懲りずに会社を運営し続け、今も金策に困っている。
まさか、90歳を過ぎても親の役目をしなければならないなんて…。そんな愚痴をこぼしながらも、新平はどうしようもない息子たちと軽快なやりとりをし、我が子の人生を尊重する。
息抜きとなっているのは、大好きな散歩の時間。妻の介護をするため、以前のように長時間の散歩は難しいが、新平は時折、息子たちに英子の見守りを任せ、思い出のある場所をぶらりと歩く。
前作では自由気ままに出かけ、行く先々でおいしい食事を楽しんでいた新平だったが、今作では散歩の仕方に変化が。ひとりで食事を楽しむだけでなく、あちこちの神社で妻の健康を祈り、英子に手土産を持ち帰るようになった。
散歩中には自身の老いを痛感することもあるが、そうした変化も素直に受け止め、新平はこれまでの人生を懐古しつつ、“今できること”とまっすぐ向き合う。その前向きな姿勢に、シニア世代はパワーを貰えることだろう。
また、新平は人生の終わりが遠くないからこそこみ上げてくる疑問に自分なりの答えを下し、自身を納得させる。もし、違う人と結婚していたら、どんな人生になっただろうか。自分が戦争で不自由な時代を過ごした反動から、息子たちを自由にさせすぎたのではないか…。
新平のそうした心のザワつきと似たものを抱えることは、きっと誰にでもある。だからこそ、過去と今の両方を大切にし、ありのままの家族の姿やこれまでの生き方を受け入れる新平の姿は心に刺さるのだ。
“どうせ、もうとっくに過ぎてしまったことだ。それに、たとえどこのどの時点に戻って手当てをできたとしても、きっと違うほころびは生じるに違いない。家族なんて、そんなものだと新平は思っていた。”(引用/P191~192)
息子と言い争った日や嫁と姑の不仲に悩んだ日々、借金に苦しんだ時期など、新平が振り返る過去は決して、良い思い出ばかりではない。だが、そうした出来事も丁寧に思い出す新平の姿に触れると、良いことだけが価値のある思い出になるではないのだと気づかされる。
泣いて苦しんだ日や、やり場のない怒りを感じた日も、長い目で見れば自分を形成してくれた大切な要素。そう知ると、今という瞬間の捉え方が少し変わるのではないだろうか。
英子の介護が始まったことを機に、少しずつ変化しはじめた明石家。その先で新平が目にした“妻の反乱”とは一体…?そして、それを受けた新平の心境は…?家族間のコミカルなやりとりにクスっとさせられ、これまで生きてきた道を振り返りたくもなるこの家族物語は、前向きな老いを考えるきっかけも授けてくれることだろう。
文=古川諭香