子どもにとって難しい「寝る」を楽しく幸せな時間に 『とんとんとん』江口ノリコさんインタビュー (パイ インターナショナル)

文芸・カルチャー

公開日:2023/10/18

おやすみねかしつけ絵本『とんとんとん』が、10月25日に発売となります。「とんとんとん」の心地よいリズムは寝る前にぴったり。しかけをひらいてお布団をかけてあげるのが楽しい絵本です。本作を手がけた江口ノリコさんに、『とんとんとん』が生まれた背景や切り絵についてお話を伺いました。

切って貼って……『とんとんとん』の作り方

『とんとんとん』は当時2歳だった息子に「ねぇ、とんとんして?」といわれたことをきっかけに出来た絵本です。

絵は、自分で彫った判子とアクリル絵の具で着彩した紙をハサミで切って、糊で貼って作っています。どこかで手描きの絵や貼り絵を学んだことは特になく、見よう見まねで制作を続けてきました。

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メイン使用文具。ハサミは刃渡りが短めの普通の工作用を使用しています。糊はずっとこれです。しっかり着くし、はがしたい時も取りやすいです。 色鉛筆は下の部分にマスキングテープを貼って、どこに使う色なのか分かりやすくしています。
彫刻刀で彫った消しゴムとアクリル絵の具で紙にテクスチャーを付けていきます。
ラフから本番ができるまで
愛娘のさくら。今回の絵本の主人公のタッチを決めているところです。参加しにきてますね(笑)
「この紺がいいにゃ!」と言っていますね。

デジタル化が進む昨今ですが、私はいまだに本なども紙のものが好きで。自分にはアナログな貼り絵が合っていたのかなと思います。

(ちなみに「紙ものが好き」とお話しされた江口さんにとって、世界で一番テンションが上がる場所は世界堂新宿本店2階の紙売り場だそうです!)

世界堂新宿本店、2階の紙売り場。下から上まで、右から左まで、気になった紙を全部買っても洋服1着分になるかならないかのお値段なのも貼り絵のいいところですね(笑)

 

貼り絵作家の道具と仕事部屋を公開!

今回特別に江口さんの仕事部屋や道具の収納方法なども見せていただきました!

作業期間中はラフをずらーっと壁に貼っています。
文具BOXとストック。子供も小さいので、リビングで作業をしています。なので、片付けやすいボックスに道具をまとめて入れています。糊は勿論ですが、ラフを描くときに修正テープや消しゴムは1日1個とか使うので、沢山ストックしています。
紙ボックス。着彩した紙は大きなボックスにどーんと入れています。意外と大胆な収納方法ですねとよく驚かれます(笑)。以前色ごとなどにきちんと分けていたのですが、非常に使いづらく……使いやすさを追求したらこうなりました。

 

気づかれるか分からない細部にまでこだわる

絵本を開いてすぐの、P.1のテキストはすごく気に入っています。一瞬にして「とんとんとん」の世界に入れる文章にできたかなと。

全体的なことですが、ただ布団をかけるしかけを繰り返すのではなく、すべてのしかけで違うできごとが起きるようにこだわりました。

『とんとんとん』より1ページ目のテキスト

 

また、くまくんがお人形にあげているご飯のお皿に車がのっていたり、着せてあげているパジャマのボタンがずれていたりするところもお気に入りです。くまくんの可愛いらしい性格が伝われば良いなと思っています。そういった、気づかれるか分からない細部までこだわって絵を描くのが好きなんです。

『とんとんとん』より
『とんとんとん』より
『とんとんとん』より

 

しかけ絵本ならではの難しさとして、「この場所には絵が入ってはいけない」や「この場所にはこの絵が入る」というのをちゃんと守らないとしかけが成り立たないので、それにあわせて絵を作るのは大変でした。

他人に優しくあるために大切な“想像力”

江口さんのデビュー絵本『しかけえほん ブーブーとあそぼ!』(交通新聞社刊)。『とんとんとん』と同じく、息子さんとの触れあいから生まれた絵本

 

小さい頃から目には見えないこと、現実にはないことを考えるのが好きでした。例えば私はぬいぐるみをたくさん持っているのですが、その子たちの考えていることや好きなもの、生い立ちなんかも、顔を見たら伝わってくるんです。(あれ、こわいですかね?笑)

そうやって頭に浮かんだものを表現する手段として、絵を描き始めました。私にとっては言葉よりも絵の方が、自分の気持ちを上手に伝えられるかもしれません。

また“想像力”が他人に優しくあるために一番大切なものだと思っていて。「想像力を養えるような絵を描くことで、世界がほんの少しでも優しくなれば」と創作活動を始めた当初から思っています。

手描きとは違う貼り絵の魅力

貼り絵の魅力ですが、作業的なことでいえば何度でも納得いくまで試せる、やり直せるところです。でもやはり一番の魅力は組み合わせ次第で、自分の想像をも超えたものになってくれるところじゃないでしょうか。

素材感、テクスチャ…紙を見ていると、これであれが出来るかも?これならあれも出来るかも?とワクワクが止まらないです。

あとは肩の関節の付き方など、手描きとは違う表現ができるのも面白いかもしれません。

「E420」。今飼っている元保護猫との出会いを描いた一番好きな絵です。E420は、うちの猫の保護猫時の個体識別番号でした。すべての猫が素敵な飼い主さんと出逢って幸せになりますように、という願いをこめた構図になっています。
愛猫のさくら

 

作家がおすすめする『とんとんとん』の楽しみかた

一緒に絵本をとんとんして楽しんでほしいですね。そしてお子さんに「自分のおもちゃをとんとんしてみたら?」とすすめてみて欲しいです!お布団に入るきっかけになるかもしれません。また、おもちゃだけでなく、絵本のように親もとんとんしてもらうのもおすすめです。子供は意外とお世話好きな子が多いと思うので。

おもちゃたちが寝るのを嫌がったり、逃げ出したりするところは、うちの4歳の息子そのものです。そういう行動を「あ?逃げちゃったねぇ」と客観的に見たり、お布団をかけて寝かしつけてあげたりすることで、ちょっとお兄さん・お姉さんの気分になれるかもしれません。

読者のみなさんへ

「寝る」というのは、楽しい遊びを止めて、おもちゃも片付けて、部屋を暗くして、目をつぶってしゃべらない……子供にとって難しいことだと思うんです。絵本に出てくるタンバリンのように、さみしい気持ちにもなります。それをこの絵本で、楽しい時間、親子の幸せな時間にしてもらえたら嬉しいです。

とんとんとん

作:江口ノリコ

出版社からの内容紹介

あかちゃんのためのおやすみしかけ絵本

お月さまに「そろそろ寝る時間ですよ」と言われたクマくん。お人形さんやタンバリンなど、自分の大切なおもちゃさん達を「とんとんとん」してあげて、順番に寝かしつけていきます。そして最後には、クマくんが…。「とんとんとん」と優しいリズムが繰り返され、親子がおだやかな気持ちに包まれながら寝かしつけができるしかけ絵本です。