うまくいかないこともプロセスの一部。「段取り」の概念を変え、本当に大事なことに集中する方法
公開日:2023/10/20
生成AIも登場した現代、「無駄を省き、大事なことに集中しよう!」と声高らかに理想を唱えたいところではありますが、とはいえ、のっぴきならない物事が押し寄せてきて「頑張って」しまう方も多いのではないかと思います。ネット広告でも「仕事のための仕事に、時間をとられていませんか?」という、耳が痛くなるけれども首を縦に振ってしまうような動画を見たことがあります。『やることを8割減らすダンドリ術』(飯田剛弘/大和書房)は、本当に「8割の無駄を捨て、本当に大事な2割に集中する」覚悟を決めさせてくれます。
著者の飯田剛弘氏はITベンチャー企業でプロジェクトマネージメント業務に従事した後、外資系の会社で東アジア、東南アジア、オセアニアに点在する多国籍人材たちのマネージメントを務めた経験を持っています。そこから学んだのは、「予想外は必ずある」ということだったといいます。
もちろん、物事がうまく進むのに越したことはありません。しかし、「うまくいく」ことよりも、もっと大事なことがあるといいます。それは「良い選択をすること」。そして、物事がうまくいっていない場合には、「どう軌道修正をするか(リカバリープランを準備する)」ということです。
うまくいかないこともプロセスの一部と考えると、「うまくいく」「うまくいかない」という考え方自体が消え去る。そしてあとは環境をつくりあげることに注力すれば、自ずと「選択の波」を丁寧に渡っていくことができるといいます。
僕は人から嫌われることを極端に恐れてました。でもこうやって、ちゃんと全部自分の状態を話して、それでも付き合ってくれる人とだけ仕事をする、と決めることで、失敗するということ自体が存在しなくなりました。
筆者が特に膝を打ったのは、「何事も、悩んだときが問題の影響が一番少ない」という言葉です。たとえば、報告が遅れれば遅れるほど、それを伝えることが難しくなるため、速やかに報告や謝罪をして対策を講じることに力を注ぐ。そうすると、「悩み」というものも苛まれるものではなく、前へ前へと歩みを進める原動力と捉えることができます。
「悩んだときが問題の影響が一番少ない」と、呪文のように唱えていれば、きっとそうした窮地の瞬間が来たときに、サッとリカバリープランの準備に移ることができるのだと想像できました。
実践的な方法も多く収録されている本書で、基本中の基本として紹介されているのは、以下の3点です。
・本来は自分でなくてもいい仕事を増やさない
・やらないとマズいことだけやる(「やらないことリスト」をつくる)
・選ぶことを選ぶ(「これだけはしっかりやる」ということを決める)
この原則をマスターし、おそらく「悟り」と言っても過言ではないステージに達しているある経営者は、こんな日々の習慣を持っているといいます。
この方は、なんと、日々の仕事を終えるたびに、自分の意見を出してくれた人たちに、メールで感謝のメッセージを送るという習慣を持っていました。内容も具体的で「○○さんのアイデアや提案が、とても役立ちました。ありがとう」のようなメッセージを送ります。それは大きなプロジェクトの成功だけではなく、小さな一日の業務に対しても同じです。
無駄を削減することに関して「わかっちゃいるけれども、なかなか忙しくてそうはいかず……」と言いたくなるところに、優しく活を入れてくれる一冊です。
文=神保慶政