『フェイト/エクストラ CCC FoxTail』連載10周年記念特別対談! 「Fate」シリーズ原作者・奈須きのこ×コミカライズ著者・たけのこ星人が語る制作秘話【後編】
公開日:2023/10/27
アプリゲーム「Fate/Grand Order」(以下FGO)の大ヒットにより、幅広い層に認知されている「Fate」。そのシリーズのひとつであるコンシューマ用RPG「Fate/EXTRA CCC」(以下、CCC)のスピンオフ漫画『フェイト/エクストラ CCC FoxTail』(KADOKAWA、以下FoxTail)が、『月刊コンプエース』(KADOKAWA)で連載10周年を迎えた。物語が終盤に差し掛かったいま、著者・たけのこ星人氏と「Fate」シリーズの原作者・奈須きのこ氏の対談が実現。本稿はその後編と、「Fate」シリーズに深く関わりのある7名からの連載10周年お祝いコメントを掲載!
取材・文=福西輝明
たけのこ星人が膨らませた鈴鹿のキャラクター像
――『FoxTail』にはオリジナルサーヴァントの鈴鹿御前が登場しますが、彼女はどのようにして誕生したのでしょうか?
たけのこ星人(以下、たけのこ):企画当初、武内さんから「本作のためのオリジナルサーヴァントを出そう」という提案があったんですが、僕は歴史の知識がゼロだったので、友達にサーヴァントにしたらイケそうな英雄や偉人を知らないか相談したんです。そのなかで「3つの太刀を持つ鈴鹿御前はどうか」とアイディアをもらったことがきっかけです。僕が最初に考えた鈴鹿の設定には、とんがったところがなくてインパクトに欠けると思い、武内さんにお知恵を拝借したんです。そうしたら、「鈴鹿は女子高生にしよう!」と言われて、一気にイメージが広がりました。僕はテンションが高いキャラを描くのが好きだったので、僕の作風とも噛み合うし、「女子高生に憧れる英霊」という設定もインパクトあるし、なんと素晴らしいアイディアなんだろうって。
最終的に「FGO」で設定監修などをしている森瀬繚(※1)さんに相談して鈴鹿御前の資料を集めていただいて設定のベースを制作したり、奈須さんに悩んでいた設定の部分をフォローしてもらったりしました。
武内さんがデザインされた初期案も、これまたかわいかった……! ただ、武内さんの中では「ギザギザ歯でヤンキー寄りの女子高生」というキャラクター像だったと思うんですが、漫画内で動かした結果、そこから少しズレてしまってすみません!という気持ちはありますね……!
奈須きのこ(以下、奈須):当初、おちゃらけているようでじつは頭脳派なキャス狐に対して、ケンカっ早いヤンキーの鈴鹿、という対比構造で武内は考えていたようです。結果的に鈴鹿は武内のイメージとは違うものになりましたが、たけのこさんが鈴鹿のことを真剣に考え、掘り下げたからこそ、こちらが想定していなかった魅力的なキャラクターに成長してくれたのでしょうね。
――原作者である奈須さんは、『FoxTail』のオリジナル要素をご覧になってどのように思われますか?
奈須:「FGO」の制作でほかのライターさんが書いたシナリオを読むとき、6割は設定などを監修する目線でチェックするんですが、残り4割は純粋なユーザー目線で楽しませてもらうんです。そのときキャラクターたちがイキイキと描かれているのを見ると、作家さんもノッて書いているのが伝わってきて、とても嬉しくなる。その点でいうと、『FoxTail』は連載当初から今に至るまで、ずっと作家さんがテンションMAXで描いているのがよくわかる。特に鈴鹿とそのマスターである坂神くん(※2)は、とても丁寧に関係が描かれているし第三者目線で見ても面白い。このふたりは『FoxTail』を単なるスピンオフではなく「たけのこ星人のオリジナル作品」として成立させている、とても重要なキャラクターだと感じます。
余談ですが、さまざまな作家さんが「Fate」の設定に合わせて作ってくれたキャラクターの中でも、「魔術師」の造形に作り手の人間性が顕著に出るんですよ。「TYPE-MOON世界の魔術師なら、こういう人物がいるのでは」と生み出したキャラクターは、個性がじつに千差万別で、作り手の価値観やアイデンティティが詰まった名刺代わりになる存在と言えます。坂神くんのクールなようで情深い在り方も、鈴鹿のおちゃらけているようで、じつは根がすっごく真面目なところも、たけのこ星人さんご自身の人間性が表れているように見えて、きのことしてはたいへん美味しいご馳走です。
※1 森瀬繚
ライター・作家・翻訳者。「Fate」関連の記事執筆や一部作品の歴史考証も行っている。代表的な翻訳作品は「新訳クトゥルー神話コレクション」シリーズ(H・P・ラヴクラフト:著、中央東口:イラスト/星海社)、『バットマン:ザ・カルト』(ジム・スターリン:著、バーニー・ライトソン:イラスト/小学館集英社プロダクション)など。
※2 坂神くん
坂神一人。『FoxTail』の登場人物で鈴鹿御前のマスター。主人公である岸波&キャス狐コンビのライバルとして、何度も激戦を繰り広げた。
アルターエゴ3人の創造
――「キングプロテア」「ヴァイオレット」「カズラドロップ」の3人は、「CCC」の制作過程でお蔵入りになった「サクラファイブ」の設定をサルベージしたキャラクターでした。この3人をたけのこ星人さんはどんな思い入れをもって描かれていたのでしょうか。
たけのこ:連載開始にあたり、3人のアルターエゴが「CCC」の中でどういう立ち回りをする予定だったのか、詳細に書かれたテキストを奈須さんからいただいたんです。それを読みながら、自分が考えたストーリーラインの中で3人にどういう立ち回りをさせるのか、あれこれ想像を膨らませるのはとても楽しい作業でした。その中でもプロテアが後に「FGO」にも登場したんですが、奈須さんとワダアルコさん(※3)が描くキャラクター像がとても魅力的で! 自分が描いているプロテアは当然ながらとても気に入っていますし、これで正しいと思っていますが、FGOのプロテアを見て奈須さんが想定していた形からは少しズレてしまっていたかもな~……と一人で勝手に反省したりしました。
奈須:ゲームである「CCC」の初期案では、超巨大なプロテアがエリアマップの遠くの方でず~んず~んと歩いているという、世界観を盛り上げる舞台装置としか考えていなかったんです。そんなプロテアを「FGO」で実装するにあたって、ワダさんに改めてデザインをお願いしたところ、すっごくキラキラ目をしているのに、どうしようもなく寂しげな少女の絵が上がってきました。これを「CCC」初期案のまま登場させたら、絵のイメージからかけ離れたものになってしまう。そこで、キャラデザに合わせて設定内容を変えたんです。
たけのこ:なるほど~。それで「FGO」のプロテアは電脳世界のプロテアから変化しているって設定があるんですね。
奈須:「プロテアはとてつもなく大きな身体に、小さい子の心が宿っている」と、たけのこ星人さんとの打ち合わせではお話ししていました。無垢で寂しがり屋なのに、誰にも触れてもらえない子なのだと。それで「FGO」でのデザインの際、ワダさんには「霊基第二の姿は、保育園児が着ぐるみを着て無邪気に遊んでいるような姿にしてほしい」とお願いしたんです。
たけのこ:それであの怪獣だったんですか! プロテアはその幼児性も含めて、乙女コースターから岸波との対話をどうするか連載当初からずっと悩んでいたんですが、結果的に奈須さんにめっちゃフォローしてもらって今の形になりました。
そういえば『FoxTail』で「くうくうお腹が……」っていう桜オマージュのセリフをプロテアに使用したんですが、「FGO」のマイルームでも言ってくれて嬉しかったです。
奈須:実のところ、あれは奈須からのお返しというか……。『FoxTail』で「これ以上はない」というくらいの桜オマージュをしてもらえたことに感動して、マイルームでお返ししようかなって……。
――ヴァイオレットはどのようなキャラクターとして描いていたのでしょうか。
たけのこ:ヴァイオレットに関しては、武内さんとの打ち合わせの中で「『黒の生徒会』とかあったらカッコいいよね」と言われまして。そこで「黒の生徒会」に入るのはシンジとジナコにして、その中で余っているヴァイオレットとシンジを組ませてみよう、と最初は特に考えもなく消去法でコンビにしてたんです。そうしたら、奈須さんからの監修で「これは『Fate/stay night』でのふたりの関係性に対するリベンジにしたい」と言われまして。そこで初めて「ホントだ! これ『stay night』の慎二とライダーの組み合わせだ!!」と気づいたんです。そこでめちゃめちゃテンションが上がって、ウキウキしながら描いていました。「CCC」のシンジがあまりにも好きだったので、自分もああいうのを描きたいと、強い意気込みをもって臨んでいましたね。やはりこのコンビは描いていてミーハー的な楽しさがある……。
奈須:ヴァイオレットは「サクラファイブ」の中でいちばん「人間的に完成している、歪みのない」個体です。おとなの女性というか、自分(サクラ)の弱さを捨て去ってというか、「白馬の王子様はいない」と現実を見て格好よく成長した姿です。でも「捨て去った」だけで、自分の闇を解消したわけでもない。そんな彼女がシンジの決意を見て「かつて王子様に憧れていた」気持ちを少し懐かしんでくれるなら、サクラ系のお父さんとしてちょっと嬉しいですね。
※以下の内容には『FoxTail』に関する大きなネタバレが含まれます。ネタバレを避けたい場合は、記事の下部にあるボタンで次のページにお進みください。
――『FoxTail』における後半の重要キャラとして描かれているカズラドロップについてはいかがですか?
たけのこ:カズラは奈須さんと一緒に悪だくみをしながら、少しずつ情報を開示していく感じがして、描いていてとても面白いキャラクターなんです。
奈須:お蔵入りになった「サクラファイブ」のメンバーの中でも最後まで残っていたのが、ゲーム版でも「いちばん善良だけど、いちばん厄介」なエゴとして登場させようと考えていたカズラなんです。でも、BBやキアラだけでもユーザーはお腹いっぱいになるだろうし、そこにカズラまで黒幕として出てきたら「桜顔」のキャラクターを悪者にしすぎてしまうと思って、登場は見合わせました。でも『FoxTail』で「CCC」の別ルートを描くのであれば、改めてカズラを○○にしたい、とかなり初期の段階でたけのこ星人さんにお話ししていたんです。
たけのこ:僕も当初からカズラを○○のつもりで描いていました。それでも「CCC」や「FGO」でのキアラのキャラクターがあまりに強烈すぎて……。今でも実は生きてるのではと読者に怪しまれてますね(笑)。
奈須:もともとキアラは初手で仕留めさえすれば、強さはそこまでではありません。カズラも能力はスライム並みで、「最初は最弱」という点ではキアラと共通しています。そんなカズラをどういう形で恐ろしい存在にするか、企画を練っているときはまだ決めかねていました。そんな折、『FoxTail』の連載が始まった頃、別件でイギリスへ取材旅行に行ったときの話です。野外の庭園でアフタヌーンティーを楽しめるお店で豪華なティーセットを堪能していたら、テーブル上の砂糖に誘われて蜂が何匹も群がってきたんですよ。あわてて追い払ったんですが、まわりのお客さんは平然として、「ああ、イギリスではこんなの日常なんだ」と感心しつつ、その「美しい庭園、真っ白なテーブルの上に群がる蜂」のビジュアルがものすごい異世界っぷりで、これをカズラの心象世界にするのはどうだ、とひらめいた。後の「虫空間」ですね。
たけのこ:じゃあ、イギリスで奈須さんがからまれたのが蜂じゃなくて、猫だったら「猫空間」になっていたわけですか?(笑)
奈須:「空間にとらえた相手を猫まみれにする『猫空間』」……。たしかにもう戦う気はなくなりますね(笑)。メルトリリスやBBはひたすら自分のレベルを上げて強くなるところが恐ろしいけど、カズラは自分を強くすることができない。その代わり、どんな強い相手も虫並みに無力にして、自我を溶かしてしまう。これこそ、もともと食虫植物の「ウツボカズラ」の名を隠したカズラドロップならではの能力になるだろうと。また、カズラは「サクラファイブ」の中でも唯一、岸波に対する感情が異なる存在なので、たけのこ星人さんにそのポイントを突き詰めて描いていただければ、最終的にはすごくいいお話に昇華できるのではないかと思っています。
たけのこ:連載から10年かけてようやく終盤に辿り着いたので、あと1年くらいでカズラとの決着に持っていけたらなと。いや本音をいえば1年もかけずに辿り着きたい!
※3 ワダアルコ
「Fate/EXTRA」シリーズのキャラクターデザインを担当しているイラストレーター。「FGO」ではネロやエリザベートなど、多数のキャラクターのデザインを手掛けている。