第5回「銀のスプーン」/鈴原希実のネガティブな性格がちょっとだけ明るくなる本

マンガ

更新日:2024/10/21

鈴原希実

私には、子供の頃から大好きな光景があります。

それは家族みんなで食卓を囲む光景。

それは幼少期の私にとって一日で一番幸せな時間で。
昔からどんなに嫌なことがあっても、家族でご飯を食べて笑いあっていると、嫌なこともいつの間にか忘れていました。

そんな私は今現在、一人暮らしをしています。
なので中々家族みんなで食卓を囲む機会が少なくなってしまいました。

一人で食べるご飯は美味しいけれど、やはりどこか寂しくて。
今でも時々、久しぶりに家族みんなでご飯が食べたいなと思うことがあります。

特に何か辛いことや苦しいことがあった日に一人でご飯を食べていると時折、美味しいはずのご飯の味が美味しく感じられなくなる瞬間が訪れたりするのです。

きっとその場合考えすぎてしまって、美味しく味わう余裕がなくなってしまっているのだと思うのですが、そんな時に改めて、家族で囲む食卓のありがたさを実感しました。

今回紹介させて頂く「銀のスプーン」という作品は、家族や、大切な人と一緒に食卓を囲むことの楽しさや温かさを描いた作品になっています。

主人公である高校三年生の早川律は、父を病気で亡くしており、母も入院してしまいます。
まだ少し幼い2人の弟と妹のため、律は食事を作ることになるのですが、そこで徐々に料理の楽しさに目覚め始めます。
食事を通して家族や周りの友人との絆を深めていく、心温まる物語となっています。

この作品の魅力は、作品全体に流れる優しくて穏やかな空気感。
そして何より、食卓には人と人を繋ぐ力があると感じられるところだと感じます。

まず、この作品の空気感。
読んでいると、何故だかずっと穏やかな風が吹いているような気分になるのです。
ハラハラする展開が起きていても、きっと大丈夫だと思えるような安心感がこの作品にはあります。

それはきっと登場人物が全体的に穏やかであること。
そして、お話のラストに食卓を囲むシーンが多く描かれていることが理由ではないかと思います。

銀のスプーン第二巻で、律が「とあること」にショックを受け、ご飯を食べるタイミングになると中々家に帰ってこない時期がありました。

その「とあること」はかなり律にとってダメージとなる内容だったため、私も凄くハラハラした気持ちで見守っていました。
そんな中で、夕食の準備を任されたのは弟の調。
彼は少しやんちゃな性格で、夕食の準備を任された当初もあまり乗り気ではありませんでした。
そして嫌々買い物に行った調は、慣れない買い物中にとあるものにぶつかってしまいます。

それは卵三パック。

焦った調はすぐに律に、「卵三パックのうち、十個割れてしまって買い取ったのだが、どんな献立が最適だろうか?」と連絡をします。

その連絡を貰った律は、久しぶりに穏やかな表情になり、調に親子丼のレシピを送信。
そしてその日は久しぶりに家族みんなで食卓を囲むことになりました。
自分が作った食事をみんながすごく嬉しそうに笑っている光景を見て、調は今日親子丼作ってよかったなと心から思ったというところでこのお話はひと段落します。

このようにハラハラする展開があっても、最終的に心温まる食卓が出てくるのですごく優しい気持ちで読み終えることが出来る。
それがこの作品の良さだと感じます。

そして今お話したのは「家族との絆」を結ぶ食卓のお話だったのですが、この作品には家族以外にも、友人との絆を食卓や食事で結ぶ場面が多く描かれています。

例えば妹の奏ちゃんが友達とギクシャクしてしまった際に食べたガトーショコラ、律が大学生になってから高校時代の友人と再会して一緒に食べたもんじゃ焼きなど。
物語の最後に登場する絆を深める食事の光景は、忘れかけていた、人と食事を食べることの温かさや大切さを思い出させてくれます。

一緒に食卓を囲むと心が温まる。
私にとってはそれが家族の存在です。

皆さんの頭に浮かんだのは誰ですか?

きっと今頭に浮かんだ人は、あなたがこれからもずっと大切にしたい人なんだと思います。

もし浮かばなかった方も、これからきっと見つけられるはず。

人と人との繋がり、そして毎日の食事を大切にしながら日々過ごしていきたいですね。

鈴原希実

<第6回に続く>

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