「他でもないあなたのことを知りたい」―犬猿の仲の底辺男子校・お嬢様学校が織りなす現代版ロミジュリ!

マンガ

公開日:2023/12/18

薫る花は凛と咲く
薫る花は凛と咲く』(三香見サカ/講談社)

「第6回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞 2022年」第2位、「次にくるマンガ大賞2022 Webマンガ部門」第6位を受賞した三香見サカ氏の『薫る花は凛と咲く』(講談社)は、敷地が隣接していながら互いにいがみ合う底辺男子校とお嬢様学校を舞台にしたラブストーリー。8月に第9巻が発売された本作の読みどころを、物語が始まる第1話と第2話を中心に紹介したい。

「バカが集まる底辺男子校」と揶揄される都立千鳥高等学校と、由緒正しき名門お嬢様校として有名な私立桔梗学園女子高等学校。校舎が隣り合いながらも校風が異なる二校は対立状態が続き、とりわけ桔梗の生徒たちは千鳥を露骨に嫌っていた。

薫る花は凛と咲く

 千鳥高校に通う高校2年生の紬凛太郎は金髪で背が高く、おまけに強面ゆえに不良と誤解されがちだった。ある日、実家のケーキ屋の店番をしていた凛太郎は、店内のイートインでいくつものケーキを一人で平らげている少女・和栗薫子と出会う。自身の外見が彼女を怯えさせてしまうことを危惧する凛太郎だったが、薫子は凛太郎を怖いと思ったことは一度もないと告げる。彼女のその言葉は、幼い頃から見た目を理由に否定的な言葉を受け続けてきた凛太郎の心を強く揺さぶった。互いを意識する二人は少しずつ距離を縮めていくが、やがて千鳥と桔梗というそれぞれの学校が判明し……。

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薫る花は凛と咲く

薫る花は凛と咲く

 相容れぬ二校という深い溝がある中で、互いのバックグラウンドを知らずに出会った凛太郎と薫子が織りなす恋を描く『薫る花は凛と咲く』。近くて遠い世界に住む二人が偶然出会って惹かれ合うという、現代日本版『ロミオとジュリエット』とも呼べるこの物語では、二人のピュアな感情の動きが丁寧に描かれていく。本来は心優しく他人を気遣える凛太郎だが、「自分は怖がられている」という思い込みが強すぎるため、他人からの褒め言葉や感謝を素直に受け取ることができず、友人に対してもどこか壁を作り続けている。自分をまるで怖がらない薫子に当初は困惑するが、彼女の笑顔や態度は彼の凝り固まった心を徐々に解きほぐしていく。

 薫子は儚げな外見の内側に芯のとおった強さを秘めており、そのまっすぐな有り様が眩しくも愛おしいヒロインだ。薫子が桔梗の生徒だと知った凛太郎は当然のように距離を置こうとするが、薫子の方は全く態度を変えず、千鳥の校門前に立って凛太郎の下校を待つといった大胆な行動をし、小さな騒ぎを引き起こしてしまう。薫子の振る舞いと、それに対する自身の感情に戸惑う凛太郎。しかし、桔梗の生徒だからという理由で薫子と距離を置くことは、これまで自身が周囲から受けていた「見かけだけで決め付けること」と何も変わらない。その過ちに気づいた凛太郎は、自分も正面から薫子に向き合おうと決意する。そんな凛太郎の心の成長や、二人を取り巻く友人たちとの関係の変化も本作の読みどころだ。

薫る花は凛と咲く

薫る花は凛と咲く

「千鳥と桔梗なんて関係ない、他でもないあなたのことを知りたい」と、境界を越えて新たな関係を歩み始めた凛太郎と薫子。『薫る花は凛と咲く』は連載元の講談社「マガジンポケット」で第1話と第2話が無料公開中なので、まだの方はぜひチェックしてみてほしい。読めばきっと、あなたもこの二人のことをもっと知りたくなるだろう。

文=嵯峨景子