絶望的な時代に生まれたからこそ――Z世代は何を思い、何を求めているのか

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公開日:2023/11/18

#Z世代的価値観
#Z世代的価値観』(竹田ダニエル/講談社)

「Z世代」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。1990年代後半から2010年代生まれのZ世代は「心理が読めない」「モチベーションがわからない」など謎に包まれた印象が多いように思えます。一方で、「Z世代のユーザーをどう取り込むかがカギだ」「Z世代に拡散してもらいたい」といった感じで、頼みの綱的存在として扱われることがしばしばあることも事実です。

#Z世代的価値観』(竹田ダニエル/講談社)は、1997年カリフォルニア生まれ、在住のアジア系アメリカ人で「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」を受賞した竹田ダニエル氏が、Z世代の心と潜在可能性について説いた一冊です。

 竹田氏は大学で音楽ビジネスを専攻している際に、ユニバーサルミュージックジャパン社の海外コンサルタントを担当するようになりました。日本のアーティストのためにアメリカとの架け橋として動いていく中で、ある時「Z世代とメンタルヘルス」に関する記事の執筆を依頼されます。それを皮切りに、アメリカに住むZ世代として「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに発信を続けてきました。

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 著者が本書で提示している前提は、「Z世代は『絶望的な世界』に生まれた」ということがあります。国家の経済成長が天井を打ち、個人のキャリアアップは往々にして見込めず、変化、停滞、頓挫が必ずつきまとうということをわかっている。そしてさらに自己責任まで問われる。そんな時に生まれたZ世代は、つながりを希求する傾向にあると著者は指摘しています。

 一方で、個々人の主体性はいまひとつ欠けているように感じることが多いという矛盾が、「上の世代」を悩ませています。例えば、SNSで自分を演出するけれども、「普通」から脱線することは避けたい(Fear Of Missing Out/取り残される不安)。会社組織に貢献することよりも、最低限の努力だけして余裕を持って生活することにモチベーションを抱く(Quiet Quitting/静かな退職)。こうしたキーワードに集約されるような世代的傾向が見られるようになったのは、なぜなのでしょうか?

 1991年生まれで、哲学研究と併行して『水中の哲学者たち』(晶文社)の執筆や哲学対話ファシリテーションをおこなってきた哲学者・永井玲衣氏と著者の対談中で、Z世代のある「気遣い」の特徴に永井氏は言及しています。

先日、日本の大学生が主催するオンラインのゼミイベントに参加したのですが、その準備や打ち合わせのやりとりが過剰なまでに丁寧なことに驚きました。私への事務連絡が何重もの敬語に包まれているんです。イベント終了後の質疑応答も、形式的なやりとりに終始して、議論が盛り上がる感じはなかったです。多分そこで自分なりの考えを出すと「イキってる」とか「意識高い」と思われてしまうのを恐れているんでしょうね。

 では、「Z世代は脆弱なメンタルなので皆で守らなければいけない」ということになるかというと、それは違います。ややロマンチストと思われようとも、皆で「愛」を叫ぶ。そんな心がけが必要なのだと著者は主張しています。言い換えると、つながりを希求する「Z世代価値観」を、Z世代以外にも宿らせるということです。

 現状、「上の世代」がそうさせにくくする気運を醸成してしまっているという具体的事例を、著者は自身がサポートを務めるミレニアル世代のアーティスト・SIRUP氏との対談で引き出しています。

アーティストが意見を持って発信するということは、「思想がある」ということなんです。何かしらの信念を持っていたり、政治的なことについて少しでも発言すると、「思想が強い」と言われるんですよ。

 ビートルズの1967年の名曲に「愛こそはすべて」という曲がありますが、いま再び「愛」を声高らかに唱える時が来たのかもしれません。少し恥ずかしい気もするその一歩を、自然に踏み出す手助けを本書はしてくれるでしょう。

文=神保慶政