ヒット作連発の敏腕少女マンガ編集者が伝授! 他分野でも応用可能な意外性のある発想法
公開日:2023/10/31
「わかりやすく、シンプルに物事を伝える」ことは日常やビジネスの様々なシーンで重要視されます。そして、それに対するノウハウは多くの書籍やネット記事などの様々な媒体で学ぶことができるようになりました。ですが、「もっと意外性がほしい」という場合、一筋縄ではいかないことが多いのではないでしょうか。実はその状況を打破するヒントは、少女マンガから得ることができます。
『「好き」を育てるマンガ術 少女マンガ編集者が答える「伝わる」作品の描き方』(鈴木重毅/フィルムアート社)は、担当作の累計発行部数4000万部超えの敏腕編集者で、『恋せよまやかし天使ども』(卯月ココ/講談社)など多くの少女マンガが生まれる舞台裏を見てきた著者の鈴木重毅氏が、そのテクニックや心構えを惜しげもなく披露してくれている一冊です。主にマンガ家志望の人向けに書いてある本ですが、他の分野にも応用できるのでご紹介できればと思います。
本書にはマンガ執筆をする際の様々な疑問が書かれています。「どうしたらキャラが立つのか」や、少女マンガ特有の議題としては「読者をキュンとさせるにはどうすればいいか?」。そして技術的なことだけでなくメンタルの保ち方についても論じられています。いくつも大事なことが述べられていますが、以下に3点ピックアップしてみました。
・日々の暮らしの中で感じるときめきを大事にする
・よく観察をする(物語やキャラは想像だけではうまれない)
・「自分だけが知っていること」を物語に変換する
この3点から言えるのは、自分の「好き」の本質をとことん見極めることが、マンガ執筆においていかに大事かということです。連載マンガの基本は「間口は広く、親しみやすく、世界の旅の仕方をわかりやすく」で、某テーマパークのアトラクションで、案内人が軽快かつ詳細に楽しみ方を案内してくれることが例示されています。マンガの場合、読み進めるたびに「読んでよかった」と思う感覚が、「旅」になるのだといいます。読者がそうなるためには、作家も良い「旅」をする必要があります。
描いている途中で面倒になったり、自分のマンガが嫌になったり、いろいろはしょったり、だんだんテンションが下がっちゃう人が多くいるのですが、そういう人はなかなか成長できません。自分が伝えようと思っていることに対して、ちゃんと最後まで責任をもって伝えようと努力する人が、伸びていくことが多いと感じています。
技術的には、作家の思考の「抽象化」と「再具体化」が大事になるといいます。その助けをするのが編集者という存在です。「好き」を突き詰める中で、作家が迷走してしまうことも少なくないといいますが、編集者は「作家が好きなこと」と「読者が読みたいこと」の橋渡しをする役回りです。読んでもらうまでが大変なので、「読まれる可能性が高いもの」に作品を仕立て上げていくのです。著者がどのように作品の構造を、まるでX線を通すかのように分析しているかのプロセスの一端を知れることが、本書の大きな魅力です。
脱落を防ぐために、大きな「どうなるのだろう?」の下に小さな「どうなるのだろう?」をいくつも設定してその答え=カタルシス=満足感を作っていくのです。
海賊王になるための第一歩、第二歩……。君に届かせるための小さな勇気その一、その二……という具合に小さな試練を作り、その都度達成や解決を描くことで短いスパンごとに「読んできてよかった」という満足感を作り、その充実感を再度味わいたいと感じてもらえるようにするのです。
作家、編集者、そしてその他の様々な関係者たちの共同作業で、「キャラ」「物語」「設定」「テーマ」という支柱を形作っていき、結果として意外性やオリジナリティのある作品が生まれる。この「少女マンガ手法」を、日々の仕事に取り入れ、応用してみてはいかがでしょうか。
文=神保慶政