地球上に残された、たったひとりの人間。そばにいてくれたのは「幸福論」を語るちょっと風変わりな柴犬で!? 『世界の終わりに柴犬と』
更新日:2023/11/14
人間の最も身近で重要なパートナーといわれる犬。犬と人間との共生関係は、はるか昔、先史時代にまで遡る。大きな歴史の転換点を幾度となく乗り越え、親密な関係を築き上げてきた私たち。この先、犬はいつまで人間のそばにいてくれるのだろうか。世界が滅びるそのとき、犬と私たちはともにあるのだろうか。
漫画家の石原雄氏がX(旧Twitter)で配信を開始し、瞬く間に人気作となった漫画『世界の終わりに柴犬と』(石原雄/KADOKAWA)は、文明が崩壊し、無人になった世界が舞台となっている。主人公は、唯一生き残った人類である女子高生(ご主人)と、彼女に従う愛犬の柴犬「ハルさん」。聡明な柴犬とクールなご主人が終末の世界をあてどなく旅する、ちょっと変わった日常譚だ。
真っ直ぐな眼差しで、ご主人のことをじっと見つめる柴犬。愛犬は普段何を考えているんだろうと気になることもあるが、本作に登場する柴犬ハルさんは、どうやらかなり哲学的なことを考えているようで…。
廃墟の世界を旅する女子高生と柴犬。そのコントラストが毎ページ新鮮で、ページをめくる手が止まらなくなる。終末の退廃感や寂しさが漂いつつも、その分、ご主人とハルさんの掛け合いのユーモアが光る作品だ。
ハルさんは犬だが、彼の放つ言葉には、いつも哲学的な含蓄がある。真っ直ぐで澄んだ眼差しで語るハルさんを見ていると、「言葉が通じないから分からないだけで、もしかしたら自分の愛犬もこんなことを考えていたりするかもしれないな…」なんて思わされるのも本作の魅力。
終末の世界に生き残った人間はご主人の女子高生ただ一人。なぜ他の人々がいなくなったのか、なぜ彼女だけが生き残ったのか、その理由は作中では明かされていない。しかし本作には、ハルさん含め犬などの動物が数多く登場する。ご主人&ハルさんが旅の途中で出会う生き物たちとの交流も毎回面白い。中には、地球外から来たと思われる生命体との出会いも…?
クールでしっかり者とはいえ、まだご主人は女子高校生。けっこう抜けているところもあるようで…。ハルさんは的確なツッコミを交えながら、そんなご主人をいつもそばで見守ってくれる。とはいえ、“根”はしっかりと「ワンちゃん」なところもまた愛おしい。
本作では愛犬とご主人の固い絆を感じられる章も多い。世界が終わる前はなかなか学校に行けず、引きこもりがちだったご主人。終末の前も後も変わらず、ハルさんはそんなご主人のことが大好きだ。そしてもちろんその思いは、ご主人も同じ。
たとえ世界が終わっても、君がそばにいてくれたら。そう思えるような犬好きにはたまらないシーンが、本作には盛り沢山だ。ご主人とハルさんの関係は、私たちと愛犬との間にある、ただひとつ変わらないものに気づかせてくれる。
博識で哲学的な柴犬ハルさんと、クールな女子高生ご主人の旅を描いた本作。ふたりの絆に触れたとき、愛犬のことをより一層愛おしく思えるに違いない。
文=K(稲)