最強だけど女に弱いダークヒーローが激闘。豪華客船でテロ組織とガンガン撃ち合うエンタメ小説『ドリフター』の続編も迫力満点!

文芸・カルチャー

PR 公開日:2023/11/15

ドリフター2 対消滅
ドリフター2 対消滅』(梶永正史/双葉社)

 組織に属さず、拠点も持たない神出鬼没の「ドリフター」。漂流を続けるあの男が、再びやってくる──!

ドリフター』の続編『ドリフター2 対消極』(梶永正史/双葉社)の刊行を知り、「待ってました!」と快哉を上げた人も多いのではないだろうか。本シリーズは、最強ダークヒーロー・豊川亮平がテロ組織と戦うノンストップ・エンターテインメント小説。圧倒的強さで敵をなぎ倒す爽快感、幾重にも入り組んだ国家転覆計画が明かされていく緊迫感、どこか不器用な豊川の人物造形の巧みさなど読みどころが多く、のめり込むように読みふけってしまう作品だ。

 豊川は、恋人の命を奪ったテロ組織をたったひとりで壊滅させた元・自衛隊特殊部隊。前作では、その背後で糸を引いていた中国の秘密組織「浸透計画」と激闘を展開し、東京をテロの危機から守り抜くことに成功した。だが、事件は一応の解決を見たものの、「浸透計画」が潰えたわけではない。というわけで今回は舞台を大阪に移し、新たな戦いが描かれる。

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 前作の戦いで、瀕死の重傷を負った豊川は、傷を癒すために大阪・西成にホームレスとして潜伏していた。だがある日、亡き恋人の姉であり、前作で共闘した朱梨が突然彼の前に現れる。彼女によれば、豊川の首には懸賞金がかけられ、世界中の殺し屋が命を狙っているらしい。朱梨の言葉を裏づけるように、豊川の身には次々と刺客が送り込まれてくる。

 その背後には、「浸透計画」が企てる新たな陰謀「セクター7」が関わっていると知り、豊川は敵地に乗り込んでいく。戦いの舞台は、クルーズ船「クリスタルホライゾン号」。表向きは船旅を楽しむための豪華客船だが、その裏で「浸透計画」の工作員を世界各地に送り込んでいる前線基地だ。この海上の要塞で、豊川は予期せぬ敵と対峙することに。敵の正体がわかった時、「対消滅」というサブタイトルの意味もおのずと見えてくるはずだ。

 映画作品のパート2は、1作目を超えられないケースも多い。だが、本作に限ってはそんな心配は無用。前作を上回るスリルと興奮を味わうことができ、高い満足感を得られる。遠隔地から豊川をサポートする天才ハッカー“ティーチャー”、敵か味方か判然としない朱梨といった前作からの登場人物も戦いに深く関わり、新たな魅力を見せてくれる。

 中でも特筆すべきは、アクションシーンのバリエーションだ。舞台が現代日本とあって、前作では銃撃戦は多少控えめだったが、今回は完全にリミッターを解除。客船で、駐車場で、病院で、手加減なしにガンガン銃を撃ちまくるので、日本の治安が心配になるほどだ。他にも、ベンツの高級SUVで爆走するカーチェイス、木刀による剣戟、肉弾戦など白熱のアクションが次々に描かれ、『ジョン・ウィック』や『ミッション:インポッシブル』もかくやのド迫力。女殺し屋さながらの黒のツナギを着た朱梨との共闘も小気味いい。こうしたアクションを、文章のみでまざまざと想像させる筆力も圧巻だ。

 へとへとに疲れた夜、なんだかむしゃくしゃする日は、誰にでもあるだろう。スカッとするアクション映画を観てストレス解消するのもいいが、ぜひその選択肢に本作を加えてほしい。次から次へと降りかかる困難を払いのけ、巨悪に立ち向かう豊川にたちまち魅了されるはず。「この男ならきっと何とかしてくれるはず!」という圧倒的な信頼があるため、ハラハラしながらも嫌なドキドキ感を味わうこともない。ただし、ひとたびページをめくると最後までやめられないので、寝不足にはご注意を。

文=野本由起