手塚治虫の名作『鉄腕アトム』のエピソードゼロ。“心を持つ”ロボットと人間との邂逅を描いた物語『アトム ザ・ビギニング』
PR 公開日:2023/11/1
手塚治虫氏によるコミック作品『鉄腕アトム』は、漫画誌「少年」での連載開始から70年以上が経過した今も尚、名作として世に語り継がれている。10万馬力のパワーと優しい心を持つ少年ロボット・鉄腕アトム。彼が誕生するまでを描いたコミック作品『アトム ザ・ビギニング』(手塚治虫:原案、ゆうきまさみ:コンセプトワークス、カサハラテツロー:漫画、手塚眞:監修、手塚プロダクション:協力/ヒーローズ)は、いわば“『鉄腕アトム』のエピソードゼロ”ともいえる物語である。
物語の舞台は、近未来の日本。原因不明の大災害に見舞われ、復興に伴う技術革新が進む国内では、ロボット開発に熱き情熱を注ぐ学生たちがいた。国立練馬大学「第7研究室」の院生である天馬午太郎(ウマタロウ)とお茶の水博志(ヒロシ)は、その中でも群を抜いており、他の研究室とは一線を画すロボットの開発に取り組んでいた。彼らが目指していたのは、次世代の人工知能「ベヴストザイン・システム理論」を用いたロボットの開発である。「ベヴストザイン」とは、ドイツ語で「意識」や「自我」を意味する。自我を持ち、真の意味で自律した行動と思考が可能なロボットを造りあげる。それが、天馬とお茶の水の目指す未来であった。
彼らは研究を重ねた末、「A106(エーテン シックス/愛称:シックス)」なるロボットの開発に成功する。「ベヴストザイン」の試作プログラムであるシックスは、スリムな体型でありながら1000馬力のパワーを持つ。その上、状況から起こり得る危険を察知し、人々の安全を守るために瞬時に行動する決断力と思考力まで兼ね備えていた。まさに「自律した」ロボットといえるシックスは、体こそ機械だが、人と心を通わせる可能性を十分に秘めた存在だった。
しかし、天馬とお茶の水が使用していた第7研究室は、研究費も底を尽き、次の教授会までに何らかの成果を上げなければ研究を打ち切りにされる窮地に追い込まれていた。「起こり得る出来事をあらかじめ想定し、それに対応するプログラムの量をひたすら増やす」方法でロボット開発を進める学生が大半の学内では、ロボットの“真の自律”を目指す二人は異端児と見なされていたのである。だが、結果として第7研究室は、研究を続ける許可を大学側から勝ち取った。
“「こころ」を忘れてしまった科学には、幸せを求める夢がないのであります!”
教授会でこのように語るお茶の水の姿に、ある教授は深い興味を示した。ロボット開発に限らず、すべての科学開発において、お茶の水のこの言葉は真理であると思う。本来、科学は人や環境資源を“守るため”に研究開発が進められるべきものだ。しかし、科学の発展と共に失われたもの、傷つけられたものも大いにある。扱う側が「こころ」を忘れた科学は、往々にして何かを守るためではなく、何かを壊すために使われる。
ロボット開発が進むのと並行して、ロボットを用いた催しも盛んに行われていた。中でも人気を博したのが、「ロボット・レスリング」である。名前の通り、ロボット同士が戦って相手の動きを止めることができれば勝利、というシンプルなルールだ。天馬とお茶の水は、賞金獲得と腕試しをかねて、シックスを大会に参加させることを決意する。他のロボットは相手を容赦なく粉砕するのに対し、シックスは相手にできるだけ損傷を負わせない形で勝利をおさめていた。その戦い方に物足りなさを感じた観客は、はじめこそブーイングを浴びせたものの、2回戦からはシックスの優しさを称え、「心やさしき科学の子」と称賛するようになる。
“優勝賞金はもらったも同然”と信じていたお茶の水たちだったが、この後、思いがけぬ強敵が現れる。大会2連覇を果たし、「無敵の軍神」と呼ばれるマルスだ。マルスとの出会い。その先で起こる、ロボットによる人類への叛乱「ロボレス事件」。数々の謎と未来への可能性を残し、『アトム ザ・ビギニング』の第1章は17巻で幕を下ろす。
そして、本作品の新章が2023年3月より連載開始となった。物語は、「ロボレス事件」からおよそ20年後の2062年からはじまる。新章では、天馬の息子である天馬トビオを主人公として、「ロボレス事件」のその後、シックスとトビオとの初対面、荒れ果てた日本の惨状などが描かれている。
ロボットと人間との邂逅。科学の発展がもたらす栄光と悲劇。光と闇の両面から人間と科学の共存を描いた本作は、人々の探究心を刺激するほか、哲学的要素も多分に含む。科学の発展が目覚ましい今日を生きる私たちにとって、本書は現実に起こり得るさまざまな未来を示唆する物語でもあるだろう。
文=碧月はる
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