マシンガンズ西堀が語る“有吉さんより楽しそうな売れない芸人” なぜ芸人を辞めないのかを問いかけたインタビュー集『芸人という病』を語る【マシンガンズインタビュー】
公開日:2023/11/2
2023年5月に放送された『THE SECOND~漫才トーナメント~』(フジテレビ)で準優勝し、大きな注目を浴びることになったマシンガンズ。この快挙により「奇跡の復活」「48歳で初めて売れた男」と言われたマシンガンズの西堀亮が、インタビュー集『芸人という病』を上梓した。
自身のYouTube「西堀ウォーカーチャンネル」に登場する和賀勇介、松崎克俊、ねろめ、などいわゆる“売れてない”芸人6人にインタビューした本書は【なぜ芸人を辞めないのか?】と彼らに問いかけ、西堀さん自身も自問自答する一冊となっている。
本記事ではマシンガンズのお2人にインタビューを実施。本書を通して感じた「芸人のおもしろさ」を語った。
(取材・文=金沢俊吾 撮影=金澤正平)
お客さんに歓迎されて、翼がもがれた
――『THE SECOND ~漫才トーナメント~』準優勝から4カ月ほど経ちました。準優勝前と比べて芸人生活に変化はありましたか?
滝沢:5月19日までは誰からも注目されていなかったのに、20日を機に「滝沢さん」がX(旧Twitter)で8日連続トレンド入り、みたいな感じで。圧倒的にモテるようになりました(笑)。
――滝沢さんがイケメンだとネットで話題になりました。先日発売されたお2人のアクリルスタンドも売れ行きが好調だそうですね。
西堀:僕はずっと近くで見てるから、滝沢くんがイケメンだって気付かなかったんですよね。最近の滝沢くんは、よく前髪をいじっているし、ネタが終わった後にお客さんに「またね」って手を振るようになったんですよ。聞こえるか聞こえないかぐらいの、小さな声で。
――スターですね(笑)。滝沢さんに限らず、舞台にマシンガンズが登場すると「待ってました!」みたいな雰囲気は以前よりもあるんじゃないでしょうか?
西堀:そうかもしれないです。以前は誰も僕らのことなんて見ていないから、へりくだって「どうか聞いてください」という作業が必要だったんです。でも今は、少なくとも前よりウェルカムな会場の雰囲気があるので、それをしなくてもよくなったかもしれないです。
――じゃあ、ネタもやりやすくなりましたか?
西堀:いや、逆に、翼をもがれてるのかもしれません。僕らはひがみとか妬みとかが多いネタなので(笑)。お客さんが歓迎してくれてるのに「うるせえな、ばかやろう」とはなかなか言いにくいですもんね。
――ダウンタウンの松本人志さんに「マシンガンズは平場が強そうだよね」と言われていました。最近はバラエティ番組にも多数出演していますが、手応えはいかがでしょうか。
西堀:いままでネタばっかりやってきて、バラエティ番組の経験がほとんどなかったんです。経験ゼロの人間がいきなり異様な数の番組に出られるようになって、何が起きてるのか全然わかりませんでした。忙しくなって5日目ぐらいに、滝沢くんが「俺、いま何やってるんだっけ?」と聞いてきたくらい。
滝沢:そうそう。いまやったのがリハか本番かもわからなかった。自分の置かれている状況が把握できないぐらいでした。
有吉さんよりも笑っている、売れていない芸人
――多忙ななか、西堀さんはインタビュー集「芸人という病」を発売されました。おそらく、多くの人は『THE SECOND』でのブレイクを受けて作られた本だと思うんです。
西堀:それが、違うんですよね。『THE SECOND』の予選すら始まってない頃にお話をいただいて。双葉社ってちょっとヤバいところがあるから(笑)。
――(笑)。書籍化のお話がきたときはどう思いましたか?
西堀:それはうれしかったですよ! YouTubeで「西堀ウォーカーチャンネル」をやってきたことが認められて、とてもうれしかったです。で、本に載せるインタビューを始めた後に『THE SECOND』がスタートして。僕もびっくりしたけど、双葉社の人たちもすごくびっくりしたと思う。
――滝沢さんは、この本を読まれていかがでしたか?
滝沢:僕の感想じゃないんですけど、このあいだお客さんに「この本に出てくる芸人の中で、和賀がいちばん人気があるのが許せない」って言われて。
――「土木作業の日給を一日で使いきる男」こと和賀勇介さんですね。
滝沢:他の芸人はみんな売れてないけど、ネタやYouTubeをやったり活動していると。でも和賀さんだけは何もやっていないのに「西堀ウォーカーチャンネル」で人気者になっているのが許せないと言ってました。確かに和賀はいつも楽しそうで、それが人を惹きつけるのかなとも思いましたね。
西堀:すごく言葉が悪いんですけど、和賀をはじめ、この本に出てくる芸人はみんな排水溝みたいな生活をしているのに、まったく悲壮感がないんです。いつも笑ってるんですよ。それってすごくないですか?
――無理をして笑っているわけじゃなく、本当に楽しそうに見えました。
西堀:この仕事をやっていると、天井も底辺も見えるんです。有吉さんとも飯食いに行くし、和賀や松崎とも飯食う、みたいな。でも、有吉さんは芸人としてのすべてを手に入れてますけど、どちらがたくさん笑ってるかといったら、下手したら和賀たちの方かもしれない。
「芸人をやっている」はすべての免罪符
――「なぜ芸人を辞めないのか?」が本書の大きなテーマです。改めて、どういったところに中毒性があると思いますか?
西堀:本のなかにも書きましたけど、やっぱりウケたときの快感が忘れられないからじゃないですかね。あの「ウケる快感」はちょっと他では味わえないと思います。
――芸人としてのプライドというか「俺はおもしろいんだ」「もっとやれるはずなんだ」という自負もあるのでしょうか。
西堀:もちろんあります。賞レースで結果を残している芸人は「自分がおもしろくない」とは思いにくいんです。残酷だけど、一度でも良い結果を出した芸人は、それから何年、何十年も過去の自分と戦わなきゃいけない。「もう一度あれぐらいのことはやれるはずだ」と思っちゃうんですよね。僕もそうでしたけど、これ、けっこう多いパターンなんです。
――取材をするなかで、改めて「芸人」という生きかたについて気付きがあれば教えてください。
西堀:一番強く思ったのは「芸人をやっている」ということがすべての免罪符になってしまうんですよね。ずっと夢を追いかけていればよくて、本当に芸人として大成して世の中に出たいとは思っているのかわからない。無観客無配信ライブをやっている「ねろめ」なんて、YouTubeでネタを流そうとしたら「恥ずかしいからやめてくれ」と言うんですよ(笑)。
――(笑)。
西堀:みんな努力せずに、ラッキーが降ってこないかと待っているんですよ(笑)。だから、来年再来年の具体的なビジョンがある芸人が一人もいない。
滝沢:この本、最後に西堀がインタビュー受けてるじゃないですか。それがすごく象徴的だなと思うんだけど、根っこの部分はマシンガンズも彼らと一緒なんじゃないかなって。
西堀:うん、一緒だよ。
滝沢:僕らだって何も努力していないですから。勝手に事務所が『THE SECOND』に応募して、俺らは15年前からやってるネタを2本だけやって。3本目は用意できなくて(笑)。
一同:(笑)
滝沢:たまたま『THE SECOND』の出番順とかがうまくいって、いまこうして芸人の仕事ができていますが、少し何かがズレていれば、いまもまったくテレビにも出れていなかったと思います。
西堀:そう、だから忙しくなる前にこの本のインタビューしているので、一般の人がおかしいと思うところに、僕はぜんぜんツッコミ入れられてないんですよ。「1円にならなくても芸人やりたいんですよ」と言われて「まあ、たしかにな…」とか。
――そう思うと、もし『THE SECOND』がなかったら“売れない芸人が売れない芸人にインタビューしてる”っていう、すごい本になっていたかもしれないですね。
西堀:本当にそうですよ! そうしたら、まとめ方も変わるでしょうし、どんな心境で自分がインタビューに答えていたか、まったく想像がつかないです。
ドバイには住みたくない
――最後に、芸人として今後の目標があれば教えてください。
西堀:芸人は続けていたいけど、大きな目標ってあんまりないんですよね。
――たとえば、有吉さんぐらいの収入を得るとか。
西堀:もちろんお金は欲しいけど、いまの仕事の感じだと一生無理でしょうね。なんというか…TikTokとかに出てくる、ドバイに住んでる怪しい人いるじゃないですか。ああいう人って何して稼いでるんですか? ちょっと怖いですよね。
滝沢:急になんなんだ(笑)。
西堀:ドバイには住みたくない。それが夢ですね。何しているかわからない金持ちよりも、売れない芸人でいたいです。
――やっぱり、売れなくても芸人でいたいですか。
西堀:もちろんです。お笑い芸人以上におもしろいことなんかないと思ってるんでしょうね。お笑いの喧騒の中にずっといたいんです。やっぱり自分を支えてる一番太いところは「芸人やってて楽しい」という気持ちなんで。
――芸人やってて楽しい。
西堀;やってて楽しい。芸人といるのも楽しい。他の仕事はやったことないし、いまさら新しいことは何もできない。それは他人から見ればマイナスかもしれないけど、僕はそれも踏まえたうえで「芸人至上主義」になっているんです。