マシンガンズ滝沢 ゴミ清掃中のポケットに忍ばせた中上健次『岬』 西堀とともにその魅力を語る【マシンガンズ 私の愛読書】
公開日:2023/11/6
さまざまな分野で活躍する著名人にお気に入りの本を紹介してもらうインタビュー連載「私の愛読書」。今回ご登場いただいたのはお笑いコンビ・マシンガンズのお2人。
滝沢秀一さんはお笑いの仕事の傍ら、2014年に『かごめかごめ』(双葉社)で小説家デビュー、第125回文學界新人では『マリングリーンの下で溢れる』が 文學界新人賞最終選考の5本に選ばれるなど、執筆活動にも注力している。
西堀亮さんも2023年9月にエッセイ本『芸人という病』(双葉社)を上梓した。本とも縁が深い2人が選んだ愛読書は、偶然にも同じ作品だった。
(取材・文=金沢俊吾 撮影=金澤正平)
マシンガンズ西堀さんの愛読書『バクネヤング』
――まず西堀さんの愛読書からお聞かせください。
西堀:松永豊和さんの『バクネヤング』という漫画です。漫画好きからは「奇書」と呼ばれている作品で、前半はひとりの男がただただ人を殺していくんですね。その男が後半で植物人間みたくなってしまい「罰が当たったのか」「じゃあ生まれながらにそうだった人はどんな罪があったのか」という問いが繰り広げられるんです。結論は出なくて、堂々巡りなんですけどね。
――漫画はたくさん読まれるんですか?
西堀:そうですね。若いころは王道よりもエッジの効いた漫画がかっこいいと思って、よく読んでいました。松本大洋さんの『ナンバーファイブ』、花輪和一さんの『刑務所の中』とか。本当は『SLAM DUNK』も好きなのに、かっこつけていたのかもしれない。
――西堀さんはとても穏やかな方で『バクネヤング』の主人公とは真逆の印象があります。
西堀:まったくそういう要素ないですよね。僕自身が普通の人間だからこそ、尖ったものを求めるのかもしれません。
マシンガンズ滝沢さんの愛読書『岬』(西堀さんも)
――続いて滝沢さん、お願いします。
滝沢:僕はもう中上健次さんの『岬』です。大学時代、村上龍さんが好きで、その師匠だという中上健次を読んでみたら「これはすごいぞ」って。
西堀:『岬』はすごいんですよ。僕も本当は『岬』って言いたかったんです。
滝沢:(笑)
西堀:滝沢くんが『岬』と言うだろうなと思って、かぶるから挙げなかったんです。
――それは、どちらかがオススメして読み始めたとかでしょうか?
西堀:いや、別々です。時代的に、みんな村上龍さんや村上春樹さん、中上健次さんあたりを読んでたんじゃないかな。
滝沢:ゴミ清掃の仕事がつらかった時期、『岬』をポケットに入れて仕事してましたから。ただ土をいじって一日が終わる、という描写がすごく好きなんですよ。何も考えずに生きることの美しさというか。それを読んで、俺も無心でゴミを回収しようと思ったんです。
西堀:まさに、そこがすごくいいんですよ。ただタバコを吸い、風が気持ちいいっていうだけのシーンなんですけどね。
滝沢:主人公の青年は、山と川と海に囲まれた僻地でクズみたいな父親と別々に暮らしていて、それに対する憎しみや怒りが吹き出るような文体が凄まじいんですよ。一行一行が死闘を表しているようで。自分で小説を書くときは、文体というかそのスピリッツみたいなものをコピーしたいなと思っているんです。
目標は「日本のゴミを減らす」
――滝沢さんは小説も書かれて、現在もゴミ清掃員を続けていらっしゃいます。『THE SECOND』でマシンガンズとしてもブレイクされていますが、今後はどのように活動されるのでしょうか?
滝沢:具体的に言うのは難しいんですが…根本的な目標は「日本のゴミを減らす」なんですよ。
――おお、そこが一番なんですね。
滝沢:今となっては、お笑いの活動もゴミに興味を持ってもらうためにやっている部分があるんです。現に『THE SECOND』で注目されるようになってから、ゴミに興味を持ってくれる人が増えたような気がしていて。
――滝沢さんは、もともとゴミに興味があって清掃員を始めたわけではないですよね?
滝沢:違いますね。先ほども言ったように、清掃の仕事へのイヤな気持ちを落ち着かせるために『岬』を読んだりしましたから。ただ、他に受かったバイト先もなかったので、与えられたところでやるしかないと思っていました。
――いまは芸人のお仕事で多忙だと思いますが、これからも清掃員の仕事は続けていくのでしょうか?
滝沢:いまも週1回はやっていますけど、もうライフワークみたいなものです。最初は芸人として売れたら辞めたいと思っていましたけど、もう辞めるという発想はないんです。思えば、最初に書いたホラー小説もゴミの話なんですよね。これからも色々形を変えて、ゴミのことを世の中に伝えていけたらなと思っています。