仕事から帰宅すると妻子が家出! モラ夫は更生し家庭崩壊の危機を回避できるのか? 『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』
更新日:2023/11/25
「パートナーのモラハラ」はSNSやWeb記事で頻繁に取り上げられるテーマだ。それに対してのコメントは「逃げるしかない」「別れるしかない」「モラハラは最初からだったはずだし今後もずっと同じはずだ」といったものが大半である。しかし、インターネット上では極端な意見が強調されるものだし、現実問題、複雑な状況が絡み合い簡単には別れられない人も多いだろう。ただ別れないとしたら、パートナーのモラハラについてどう考え、どう対処したらいいのだろうか。
「人は変わらない」という主張について、コミックエッセイ『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』(龍たまこ:漫画、中川瑛:原作/KADOKAWA)は、新たな視点を与えてくれる。
妻子に家を出ていかれたモラハラ夫、そのとき彼のとった行動は?
自分は仕事も家庭もうまくやれている、そう自負していたエリート会社員・野沢翔が、ある日帰宅すると、家の中は真っ暗。「どういうことだ?」翔は激しく動揺する。このときすでに、夫婦は「99%離婚」という状況だった。家の暗さは夫婦の断絶を意味しており、未来に希望の光はまったく見えない。
妻の彩(あや)は彼のどこが好きだったのかが思い出せなくなっていた。
自信があって頼りがいがあると思って付き合い、結婚した翔だが、彼は他人に厳しかった。結婚し、子どもができても彼に変化はなく、小ばかにするような態度やひどい言葉で彩を傷つけていた。身体的な暴力こそふるわれていないものの、言葉で一方的にダメージを与えられた彼女は自分を責めることもあった。読んでいて胸が苦しくなる描写が続く。
そのうちに彩は“夫婦間のモラハラ”について知る。彼女が受けているのは精神的なDVだった。子どもの柚(ゆず)が不機嫌な父親と、辛そうな母親のために明るくふるまうのを目の当たりにして、彩は覚悟を決めるのだった。
翔は“突然”妻子に出ていかれたとしか思わない。連絡してもほとんど返事はなく、最初はキレていた彼は、あれだけ自信満々だったのが嘘のようにどん底状態になる。
見かねた翔の元上司が、様子がおかしい彼を食事に誘い、話を聞いてくれた。これが翔にとってのターニングポイントになった。今は優しい雰囲気の元上司は、以前は家庭を顧みず仕事だけに打ち込み、たまに自分がやりたい家族サービスを行って自己満足にひたっていた。現在は妻に愛想をつかされて離婚となり、子どもにまったく会えなくなっているという。
意を決してネットを検索した翔は、とある団体にたどり着く。そこは彼と同じように、妻に出ていかれた夫たちが語り合い、自分たちを見つめなおす自助グループだった。
そこで翔が自分がしてこなかったことと、してきたことを考える。こうして彼はようやく“モラハラの加害”についての自覚をもつようになるのだ。
本作のポイントは、モラハラ被害者側の視点だけではなく、モラハラ加害者側の視点や考え方を詳細に描いているところだ。正直、その自分勝手さは読んでいて腹が立つ。しかしそれがリアルで、納得感がある。
結果として翔は変わろうとする。妻への考え方や行動を改め、根本的な自分のものの考え方に向き合うのだ。彩は夫の変化をどう受け止めるのか。はたして野沢家はどうなっていくのか。前述の通り家族をていねいに描いていく物語は、けしてご都合主義なラストにはなっていないとだけ書いておく。
本当に「人間は変わらない」のか
DV被害者やモラハラ被害者がその状況から脱出し、癒され、前向きになっていくストーリーはいくつもある。ただ本作は「自分がモラハラ加害をしている」ことに気づくためのサインや対処法、そして回復の方法も学ぶことができる。それは家族の再生につながっているのだ。
本稿のライターは少し怖くなった。考えてみれば「夫婦のモラハラ」に限らず、どのような問題でも「自分は加害者にはならない」と思い込むことでゼロかイチかで語れてしまう。しかし現実は何かのきっかけで自覚なしに、どちらの立場にもなってもおかしくないのだ。もちろん、だから加害を許せということではない。加害する相手にも向き合い、理解できたほうが“家族にとって”よりいいのではないだろうか。これは本作を読んで私が思うようになったことである。
世間では「モラハラする人間は変わらない」と言われている。だが本作の漫画を担当している龍たまこ氏は、あとがきで「人は変われる、学びなおせる、わたしはその言葉に小さな希望を感じずにはいられません」と書いている。龍氏は離婚を経験しており、その方がこう言っていることに大きな意味があるのだ。なお龍氏は、ラスト3ページに特に万感の思いを込めたという。読んで、あなたは何を感じるだろうか。
なお、原作の中川瑛氏が本作に寄稿したコラム「加害の自覚の契機やプロセスについて」「なぜ離婚という選択をしないか、ためらうのか」なども非常に学びになるので、ぜひチェックしてほしい。最後に、もし本稿を読んでいるあなたが、モラハラ被害を受けており「~%離婚」という状態であるならば、できるだけすぐにモラハラ被害者の当事者団体、支援団体にアクセスしてほしい。本作の彩もそうであったように、ひとりで解決することは難しいからだ。
文=古林恭