長寿のカギはレム睡眠? 近い未来に不老不死が実現? 科学者たちが明かす最前線の「老化治療」

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PR 公開日:2023/11/15

老化は治療できるか
老化は治療できるか』(河合香織/文藝春秋)

「不老不死」は人類にとって永遠の夢。だが決定的な技術や妙薬は未だに発見されていない。果たして不老不死は実現可能なのだろうか。『老化は治療できるか』(河合香織/文藝春秋)は最新の研究結果を交えて、不老不死を実現するヒントを解説している興味深い一冊だ。

 これまでの科学で解明されている長寿につながる生活習慣や、不老不死生物の謎、最前線の老化治療などを詳しく紹介している。

最前線の老化治療! 不老不死のヒントは老化細胞にあり?

 老化の根本的な原因は、小さな炎症が組織や臓器のあらゆるところに過度に起きること。そうした炎症を起こしている原因のひとつが老化細胞なのだとか。老化細胞は加齢以外に、腎不全や糖尿病といった生活習慣病でも増加する。また、紫外線や放射線によるDNAの損傷などでも生まれるという。

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 ということは、老化細胞を取り除く薬ができれば、様々な生活習慣病を改善し、老いない人生を手に入れることが可能と思えてくる。

 その研究に取り組んでいるのが、東京大学医科学研究所の所長・中西真教授だ。中西教授の研究チームはGLS1という酵素が老化細胞の生存を可能にしていることを突き止めた。

 そこで、GLS1を阻害する薬をマウスに注射したところ、老化に伴って起きる様々な臓器や組織の機能低下や高齢期の筋力低下が改善したという。

 現在、アメリカではがんの治療薬としてGLS1の阻害剤を人に投与する治験が行われているとのこと。こうした薬によって、人は人類の最大寿命と言われている115歳に近づくことができ、最後まで健康な体で寿命を迎えられるかもしれないと中西教授は語っている。

 だが、その一方で、老化細胞は人体に悪い影響を及ぼすだけではないと、大阪大学微生物病研究所の原英二教授は警鐘を鳴らす。原教授は、老化細胞の除去で加齢に伴う疾病が治るという考えに期待は寄せているものの、老化細胞の中には免疫の活性化や傷の修復などに関して良い働きをする可能性をもつものもあるため、危険性を考慮して慎重に研究を進めていく必要があると話している。

 まだまだ謎が多い老化細胞と不老不死の関係。その調査研究の行方が気になるところだ。

科学者が解明した長寿のヒントは「睡眠の質」?

 老化と長寿に関する様々な研究に励む科学者たちに取材を重ね、不老不死のヒントを探る著者。その中で多数の科学者が口をそろえて挙げた健康長寿の条件のひとつが、睡眠の質を高めることだったそう。

 その重要性は2020年、スタンフォード大学などの研究グループによって発表された、レム睡眠の割合と死亡との関係を調べた研究でも明らかになっている。高齢の男性を12年間にわたって追跡調査したこの研究では、レム睡眠が5%減るごとに総死亡率が、なんと13%も上昇したそう。さらに、心血管疾患による死亡リスクも11%上昇することが分かったとのこと。

 その後、研究グループが女性においても検証したところ、レム睡眠と死亡リスクの関係は有意だったという。また、ノンレム睡眠と死亡リスクの関係も調査してみると、死亡率と深い関係があるのはレム睡眠であることが判明したのだとか。

 なぜ、レム睡眠がそれほど寿命と関わるのかは、残念ながらまだ明らかになっていない。だが、レム睡眠の減少は認知症リスクを大幅に高めることも分かっているため、不老不死を解き明かす、ひとつの重大な要素になりそうだ。

 とはいえ、日本人は睡眠の質を考える以前に、量が足りていないのが現状。実は世界で最も眠っていない国民で、その中でも東京の住民は最低睡眠時間なのだとか。著者は寝不足の人が睡眠負債(睡眠不足が続いた際に蓄積した本来寝るべき時間のこと)を解消する方法についても言及しているので、そうした助言を参考にまずは睡眠という観点から老いとの向き合い方を考えてみてはいかがだろうか。

 なお、本書は人類が不老不死を手に入れた先で生じるであろう疑問や悩みにもスポットを当て、思考を巡らせているから面白い。長寿は幸せなのかという問いや、死ねないからこそ生まれる苦しみもあるという気づきを得ると、改めて老いや死の意味を考えたくなるはずだ。

 日々進んでいく不老不死に関する研究。そのスピードは私たちが思っている以上に速く、人間の感情はついていけるだろうか。決して夢物語や遠い未来の話ではないこととして、“不老不死”というものを改めて考えたくなる一冊だ。

文=古川諭香