いい写真は伝わる写真。でも正しく受け取ってもらうために必要なものがある!/うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真

暮らし

公開日:2023/11/19

 ケータイ、スマホのおかげで身近になった写真。カメラを買って本格的に始めたいと思っている人は多いのではないでしょうか。

 誰でも写真の才能がある。でも、多くの人が写真を誤解している――写真家・幡野広志氏が大人気のワークショップをベースに、写真の撮り方から心構えまでを書き下ろした「写真の本」が本書です。

 いい写真とうまい写真は違う。だめな写真とへたな写真も同じ意味じゃない。うまくてだめな写真もあるし、ヘタだけどいい写真もある。写真に対する価値観が変わる、写真初心者必読の1冊です!

※本作品は『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』(幡野広志:著、ヨシタケシンスケ:イラスト/ポプラ社)から一部抜粋・編集しました

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うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真
『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』(幡野広志:著、ヨシタケシンスケ:イラスト/ポプラ社)

言葉で伝える

 いい写真は伝わる写真です。だけど言葉がないと写真は伝わりません。言葉がなくても伝わる写真はありますけど、そんな簡単なものではないです。「言葉にならないことを撮りたい」という人もいるけど、そういう写真が撮れる人は天才です。天才はいます。写真学生が3000人いたら、一人ぐらいいるかもしれません。

 ぼくはバカよりの凡人なので「言葉にならないことを撮りたい」は早々に諦めて、言葉でしっかり伝えることを意識しています。

 写真はキャプションひとつで見え方がまったく変わります。おなじ写真でもキャプションで180度印象が変わるのだ。それくらい写真は不安定な存在なんです。だからやろうと思えば印象操作も可能になるし、正しく写真を受け取ってもらうには言葉が必要です。

「作品を見た人がそれぞれ自由に感じてほしい」という人もいます。聞こえはいいけど、それは写真ではむずかしいんですよ。自分の信条とはまったく真逆の受け取り方をされたら嫌なものだし、写真だけ見たってわかるわけもないんですよ。

 映画やドラマや漫画や小説では可能です。なぜならセリフで言葉を尽くしているからです。だからこれらの作品は見終わったあとに否応なく考えさせられるし、しっかりと伝わる。

 写真は言葉で説明しないとダメ、言葉があってはじめて完成します。写真につける文章は写真の取扱説明書のようなものです。写真って写真だけじゃ伝わらないですからね。25ページの「さしみ食わせろ」と一緒。

 言葉をむずかしく考えないでいいです。感情を書くだけでいいです。きれい、かわいい、うれしい、美味しそう。そういう感情をわかりやすく説明すればいいだけです。めちゃくちゃ大事なのは、起こった出来事や写真にうつっているモノを説明するのではなく、自分が何を思ったかを言葉にすることです。

 ここでよくわからんフランス語や英語や詩のようなものを添えちゃダメですよ。ダメっていうか伝わりませんよ。なぜなら海外の言葉も詩も伝わりにくいから。伝わらない写真に伝わらない言葉をつけると、まったくわからない作品になりますからね。

 添えるのはポエムじゃなくて小学生でも理解できる言葉です。俳句だってポエムだってフランス語だってわかりやすい説明がないと伝わらないからね。

うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真

 この写真は息子と遊園地のブランコに乗ったときの写真です。たとえばこの写真に言葉をつけるなら「家族で行った遊園地、小学生になった息子はお父さんの前を行くようになった」と書きます。

 これまで息子は自分の視界にお父さんかお母さんがはいるように、いつも後ろにいたんです。子どもってそのほうが安心するじゃないですか。ブランコに乗るときぼくの後ろか横に座るかと思ったけど、グイグイと前に進んでいったんです。ぼくはこのときに「成長したなぁ」と感じました。それをちょっと説明するだけ。

 これをタイトルと勘違いしちゃダメですよ。タイトルになると「子どもとブランコ」とかになりがち。写真にうつっているものの説明ではないんです。かといって「成長」だけでもまったくわからないんですよ。

 伝わらないタイトルの写真を見た人は何もわからないから「いい流し撮りですねぇ」とか「鎖の前ボケがいいですねぇ」とか「青いジャケットがいいですねぇ」みたいな感想になる。最悪なのは「カメラは何を使ったんですか?」「レンズは何㎜を?」みたいなどうでもいいやりとりが発生します。

「写真を見た人がそれぞれ自由に感じてほしい」だと、見る人は困っちゃうんですよ。それでヘンテコなこといっちゃう。もしくは変なこといいたくないから黙るの。つまり反応に困って気まずいんですよ。撮影者は自分が全部理解できてるけど、見た人はそうじゃないんですね。だから「写真はわからない」って正直な感想が巷で溢れるんです。

 そもそも1枚の写真にタイトルつけるのは無理がありますよ。30枚ぐらいの作品群になってようやくタイトルがつけられるもの。映画のワンシーンにタイトルをつけるのはむずかしいけど、映画にはタイトルがつくことと一緒。

 言葉は写真がなくても成立する文章を書きましょう。写真展をするときはステートメントという文章を書くんだけど、いいステートメントって文章単体でおもしろいですよ。写真展って難解なステートメントばかりだから、余計に写真がわからないんですよね。

 写真は文章がなくても写真単体として成立する写真を目指しましょう。矛盾することをいってるように感じるかもしれないけど、写真は写真単体でもちろん頑張ります。

 だけど100点なんて目指さなくていいんですからね。ぼくだって無理です。言葉で40点、写真で40点でいいんです。合計点で80点になるから。写真のうまさだけで70点取って、言葉で5点取ってる人よりもずっといいよ。40点の写真はヘタかもしれないけどちゃんと伝わるもん。言葉と写真、それぞれが成り立つことで作品になる。

 ちなみにぼくは三半規管が弱くてブランコに乗ると酔っちゃうの。撮影している最中は「気持ち悪い、はやく終われ」ですよ。言葉にするのはそういうことじゃないからね。撮ってる最中は撮ることに集中。言葉を考えるのは自分の写真を見返したとき。そこで感じたことを言葉にするの。撮ったときの感情は言葉にしなくていいんですよ。それは笑い話や裏話でいいんですからね。

 真夏に撮った写真なんて全部「暑い」になるし、真冬の写真は全部「寒い」になるんだけど、そういうことじゃないからね。自分が何を感じたか言葉にしましょう。これができないとバズる写真、バエる写真、エモい写真になりがちなんだよね。

<続きは本書でお楽しみください>


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