エマ・ワトソンも経験した「インポスター症候群」とは?70%の人が生涯で経験すると言われる心理状態を克服まで導くメゾット本
公開日:2023/11/19
初めて本を出版したとき、周りの目がガラリと変わった。「本を出すなんてすごい!」「作家さんだね!」と称賛され、最初は嬉しかったのだが、段々と「わたしなんてまだまだ大した文章は書けないのに……」と落ち込むようになった。
先日、たまたま書店で手に取った『インポスター症候群:本当の自分を見失いかけている人に知ってほしい』(小高千枝/法研)を読み、わたしはあのときインポスター症候群に陥っていたのだなと気づいた。
インポスター症候群とは、自分の能力や実績を認めることができず、周りから評価されることに対して、騙しているように感じてしまう心理状態のこと。インポスターは英語で“imposter”と書き、「詐欺師」「偽物」などと訳される。インポスター症候群は「詐欺師症候群」「ペテン師症候群」と言われることもある。
日本ではまだそれほど知られていないが、海外では多くの著名人がインポスター症候群で苦しんでいることを告白しているという。エマ・ワトソン、ジェシカ・アルバ、ナタリー・ポートマンといった大女優のほか、元アメリカ大統領夫人であり、弁護士としても輝かしいキャリアを持つミシェル・オバマもインポスター症候群を経験したことを告白している。「生涯に少なくとも一度はインポスター症候群を経験する人は70%に及ぶ」という研究報告もあるほど、実はとても身近なものだ。
著名人だけでなく、会社で役職に就く、プロジェクトリーダーに抜擢される、チームのキャプテンに任命されるなど、「その人なりのステップアップ」をした人も、インポスター症候群に陥ることは十分あり得るという。しかし、ステップアップをする機会というのはそう簡単に訪れるものではない。それが、「SNSが普及したことによって一変した」と著者は言う。
SNSの世界では、見えない力のようなものにグッと押し上げられて、一気に有名になることがよく起こる。一気に成功を手に入れると、得てして自分を見失ってしまうことになり、インポスター症候群に陥ってしまうことが珍しくないというのだ。「自分で力を尽くした」という感覚があってこそ、達成感や充実感が湧いてくる。逆に言えば、「それに値するだけのことをやった」という感覚がないまま手に入ったものに対しては、心から受け入れられなかったり、どこか偽物という感覚を持ってしまったりするもの。SNSではこうした「自分で力を尽くした」という感覚がないまま有名になることが起こりがちで、これからますますインポスター症候群への陥りやすさが加速されるのではないかと、著者は危惧する。
インポスター症候群を克服するためには、見失ってしまった「本当の自分」を取り戻すことが必要になってくる。そのためにはまず「自分」というものを理解しておくことが望まれる。本書には自分を理解するために役立つ3つの理論(マズローの欲求5段階説、人の性格の4層構造、体癖論)、インポスター症候群を克服する鍵となる「自己肯定感」を高める心理学のメソッドを具体的に紹介している。
「自分もインポスター症候群かもしれない……」と感じた人は、ぜひとも本書を読んで傾向と対策をより詳しく知ってほしい。
文=尾崎ムギ子