『きのう何食べた?』最新22巻では、同性カップルに向けた結婚披露宴のスピーチに号泣。主人公カップルも今や50代後半!
更新日:2023/12/12
実写化もされた人気漫画『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)が始まったのは2007年のことである。同性カップルの日常と食を描いた本作は、読者と共に年を重ねてきた。連載が始まったころ、43歳だった筧史朗(かけい・しろう)と41歳だった矢吹賢二(やぶき・けんじ)という主人公のカップルも、今や50代後半である。
2007年よりは世間で同性カップルの理解が進んでいるとはいえ微々たるもので、まだ日本で同性婚は法的に認められていない。それは現実と同じ環境で生きている史朗や賢二も感じていることで、連載初期の史朗は自分が同性愛者であることを隠しながら賢二と同居していた。時を経た今も、史朗はまだ職場でカミングアウトをしていない。一方、史朗の個人としての感情には変化が訪れた。賢二とふたりで出かけるようになったり結婚式にカップルとして招待されたりと、史朗は賢二を大切に思う気持ちが、時と共に強まっている。パートナーの賢二はと言えば、もともと職場にも自分がゲイであることを打ち明けていて、今も史朗に付き合いたてのような恋心を抱き、時にはやきもちを焼いている。変わっていく史朗と、変わらないときめきを保ち続ける賢二。対照的なふたりが人生を共に歩むパートナーとして互いに認識していく過程も、本作を読む醍醐味のひとつである。
最新の22巻は、史朗・賢二と仲の良い同性カップルである井上航と小日向大策の結婚披露宴のエピソードが収録されている。結婚披露宴の話は、最新刊以前に決まっていたことなので「いよいよ挙式本番か」と個人的に楽しみにしていた。ちなみに現在は同性カップルの挙式ができる会場が多くある。22巻では、同性カップルの結婚を特別なものとして取り上げず、異性のカップルの挙式と同じように日常の出来事のひとつとして描写されており、どこかで異性のパートナーとの結婚式とは異なる点があるのではないだろうかと考えていた自分を恥じた。友人のパートナーが同性でも異性でも祝福したいと感じていたが、そう感じること自体が偏見なのかもしれない。史朗は、いつもは冷静沈着な大策が、愛する航と並んでうれしそうにしているのを見ながらスピーチをする。
パートナーのこんなにうれしそうな顔が見られるものなら 結婚式を挙げるのも悪くないですね
今日の披露宴は (中略) 私と私のパートナーにも幸せな経験をさせてくれたんです
ふだん、史朗は賢二への愛情をほとんど表に出さない。しかしこの言葉には賢二を大切にしている気持ちが表れている。日本は今も同性婚を認めていないが、婚姻制度に関係なく史朗と賢二がふたりで人生を歩んでいることが実感できる言葉である。
結婚披露宴の後、大策と航は養子縁組を結ぶ。航はそれを史朗と賢二に伝えるのだが、これは日本がまだ同性カップルの婚姻を認めていない問題をあぶり出すシーンでもある。航や大策だけではなく、現実でも多くの同性カップルが感じていることなのではないだろうか。
22巻はほかに史朗が人生で付き合った唯一の女性のその後や、賢二の美容院で働く青年とその彼女の食生活などが描かれ、なおかつ連載開始から変わらずどのエピソードにも食の要素が盛り込まれている。また史朗の法律事務所で働く女性が、チャットGPTで献立をたてようとした時の話など、リアルタイムの話題もあって興味深い。いろいろな意味で22巻は味わい深い一冊だった。
文=若林理央