Twitter文学を詰め込んだ1冊のコミカライズ。華やかな「東京」で交錯する“しみったれた”人間ドラマ『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』
PR 公開日:2023/11/13
きらびやかで、華やかな東京のど真ん中。そこには、行き交う人々の様々な“思惑”がある。書籍『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(麻布競馬場/集英社)は、まさしく東京にある悲哀を描いた作品だ。
Twitter(現X)で連載され大きな反響を呼んだ、“Twitter文学”である同作。本稿でご紹介するのは、そんな同作のコミカライズ版『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(原作:麻布競馬場・漫画:川野倫/集英社)だ。本書には、20の物語が収録されている。理想を描いて東京で暮らすも、それぞれの“現実”に打ちひしがれる登場人物たち。描かれる内容はときに醜く、ときにしみったれている。しかし、それこそ“人間”であると、納得してしまう。
■一夜の“大人の関係”ではじまった「恋愛」のジレンマ
本書の一編「30まで独身だったら結婚しよ」は、学生時代に味わった「大人の恋愛」の心情を、その後も抱え続ける女性の話だ。
主人公・園田は大学の文化祭実行委員で、同期の男子学生・加賀と出会った。飲み会終わりで仲間と分かれた流れで、2人は“大人の関係”に。その関係は気づかれないままある日飲み会でふと、仲間に「二人合うんだから結婚すればいいじゃん!」と持てはやされ、かわす園田だったが、加賀は「30までお互い独身だったら結婚しよ」と、ポツリとつぶやいた。
しかし、あるきっかけで2人の関係は「唐突」に終焉。やがて、たがいに30歳になった同窓会の場で、タワマン暮らしで独身の園田、奥さんと子どもに囲まれた加賀は、たがいに笑顔で近況を報告し合った。
■サブカルチャーの街「高円寺」でにじむ学生時代の悲哀
高円寺で暮らし続ける男性を中心に描く「高円寺より愛を込めて」は、学生時代の“淡い恋の思い出”を捨て切れない大人の男性なら、強く心に刺さる一編だ。
高円寺には「マイナーな音楽と映画」「古い漫画にレコード」と、サブカルチャーが集まる。趣味で意気投合した主人公の平野と、やがて、気持ちが通じ合った女子学生の新田。平野の住む高円寺の「安アパート」に彼女が足を運ばなくなったのは、共に「(大学)4年の就活が忙しくなった頃」だった。
内定を得た新田と、就職活動を続ける平野。環境の変化で、たがいの心はすれ違っていく。やがて、焦った平野は新田にプロポーズをする。8年後、高円寺で暮らし続ける平野。学生時代の思い出を今なお噛み締めながら、「幸せ」な新田を電車の中で見つめていた。
本書で綴られる物語はけっしてきらびやかではなく、華やかでもない。しかし、現実は“そんなもの”だ。だからこそ、読者である私たちの心を抉り、揺り動かしてくれる。
文=カネコシュウヘイ