紫式部は家庭教師、藤原道綱母はインフルエンサー? 平安時代を生きた文豪たちのパーソナルな部分を紐解く『平安の文豪』

文芸・カルチャー

公開日:2023/11/17

平安の文豪
平安の文豪』(河合敦/ポプラ社)

 平安時代は、日本史上もっとも文学が発展した時代のひとつと言われている。とりわけ女流作家の活躍が目立っており、この時代に生まれた紫式部の『源氏物語』や清少納言の『枕草子』を始めとした物語は、1000年以上経った今でも色褪せていない。そんな平安時代の文豪たちと名作をひとまとめに解説しているのが、2023年11月8日(水)に発売された『平安の文豪』だ。

 同書を手掛けた河合敦氏は、歴史研究家であり早稲田大学にて非常勤講師も務める人物。過去には「歴史探偵」(NHK系)、「号外!日本史スクープ砲」(BS松竹東急)などの歴史評論家として出演し、わかりやすい解説で人気を博した。

 そんな河合氏が同書で紹介しているのは、平安時代を生きた15人の文豪にまつわるエピソード。空海や菅原道真を始めとした有名人以外にも、日本初の仏教説話集『日本国現報善悪霊異記(日本霊異記)』を生み出した景戒(きょうかい/けいかい)や、日本で最初に作られた百科事典『和名類聚抄』の著者・源順(みなもとのしたごう)といったマイナーどころも網羅されている。

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 また同書では、「どうして平安の文豪たちはこの題材を書こうとしたのか」や「彼らはいかなる人生を歩んだのか」といった点にもフォーカスが当てられている。たとえば、紀貫之が女性になりすまして『土佐日記』を執筆したのは有名な話だが、さらに深掘りして学校では教わらないであろう彼の生涯や歌人としての活躍ぶりを知ることが可能だ。

 そして、ある意味最大の読みどころとなっているのは、もし各文豪が現代に生きていたらどんな職業に就いていたかを予想している点。一概に作家と言っても歩んできた人生は異なり、生まれる時代が違えば別の職業で才能を発揮していたかもしれない。

 そこで少し妄想を膨らませ、令和の日本に生まれていたら……という河合氏による独自の観点が同書を楽しく読み進める工夫として組み込まれている。ちなみに、紫式部は一条天皇の中宮・藤原彰子の女房(宮中や貴族の屋敷に仕えた女性)として宮仕えしており、彰子の教育係として期待されていた背景などから“家庭教師”と予想されていた。

 今となっては読むのも一苦労な平安時代の名作を噛み砕きつつ、作者の生涯や意外なエピソードを紹介している『平安の文豪』。さっそく手に取った人からは、「やっぱりユニークな物語を書く人は、それなりに奇天烈な人生を歩んでいたんだなぁと思わされた」「藤原道綱母がインフルエンサーになっていたかも…と考えたらクスっときた」などの感想が集まっていた。

 ちなみに、2024年に放送されるNHK大河ドラマ『光る君へ』は紫式部を主人公に据えた物語。予め同書を読んでおけば、ストーリーをより深く堪能できるだろう。