夏目漱石が現代日本の女子高校生に転生したら――漱石マンガの第一人者が描く、異色の転生コミック『JK漱石』

マンガ

公開日:2023/11/15

JK漱石
JK漱石』(香日ゆら/KADOKAWA)

 昔の文豪というと、何かとクセの強い性格や言動、こだわりの強さが話題になる。『こころ』『坊っちゃん』『吾輩は猫である』などで有名な夏目漱石も、そのうちの一人と言えるだろう。もし、そんな彼が現代に転生したら、しかも女子高校生だったら、いったいどうなるのか――。『JK漱石』(香日ゆら/KADOKAWA)は、女子高校生に生まれ変わった夏目漱石の生活を描く、ちょっと変わった転生物語だ。

 本作を手掛けているのは、夏目漱石にまつわる史実をもとにした4コマ漫画『先生と僕 ~夏目漱石を囲む人々~』(KADOKAWA)の著者・香日ゆら氏。2010年の発売当時には新聞に多く取り上げられ、小中学校や図書館にも配本されるなど、4コマ漫画としては異例のヒットとなった。また講演会やラジオ出演など、夏目漱石界隈において漫画家の枠を超えた活躍をしている香日氏は、2019年に放送された大河ドラマ「いだてん」で、明治ことば指導としても参加。明治時代の深い知識を持つ人物として注目されている。

『先生と僕』では、友人、家族、門下生との関係、患っていた病気、恋愛観、教師としての顔など、まるで漱石の生涯を見てきたかのようなリアリティーを感じさせながらもコミカルに描いている。その愛ある描写は、特に漱石に詳しくない筆者ですら、読み進めるうちに漱石ファンになってしまうほどだ。累計発行部数20万部超えというのも頷ける、奥深い内容となっている。

advertisement

 そしてもちろん本作『JK漱石』でも、その生きた漱石のキャラクターがしっかり反映されている。死後100年後の現代日本に転生した漱石は、朝日奈璃音(あさひなりおん)という女子高生として育っていた。

JK漱石

 璃音として生きるにあたって、漱石はひっそりと平穏に、ストレスなく健康的に暮らすことを目標とするが、入試成績トップで新入生代表の挨拶をしたり、図書委員になったことでクセが強い生徒たちに出会い、彼女らのごたごたに巻き込まれたりしていく。

JK漱石

 璃音が漱石ゆえに、言葉の端々に挟まれる言い回しがいちいちツボにはまる諸星天満(もろぼしてんま)。いつも天満の横にいる、なぜか璃音を敵視するかのように睨んでくる朔間希(さくまのぞみ)。漱石作品が好きな幼馴染と仲直りしたいがために漱石の本を読むため休館日に図書館の扉を開けようとしていた金髪ふわふわ女子・早乙女真(さおとめまこと)。真の幼馴染男子・ゆうちゃん。ほかにも璃音のまわりには、個性的な生徒たちが次々と寄ってくる。

JK漱石

 姿は女子高校生でも中身は漱石。持ち前の言語学習能力の高さやハイレベルな基礎学力、漱石としての記憶、察しの良さ、そして天性の人たらし力で、次々と人々の心の壁を壊し、懐柔していく。漱石ネタでマウントを取ろうとしてくる“優秀なイキリ”男子・ゆうちゃんに、「俺が夏目漱石だからに決まっとろうが!!」なんて言ってしまう意表を突くギャップも人たらしに繋がっているのかもしれない。こんなことを面と向かって堂々と言われたら、面白くて気にしない方が無理だ。

JK漱石

 本作だけでも十分魅力的で気になる展開尽くしだが、先に紹介した『先生と僕』を読んでおくとより楽しめるだろう。なんだかんだ言いながら周囲の人たちを気にかけて面倒を見てしまう部分や、たまにカッとなって大人げない態度をとってしまう部分、真面目ゆえに高校生との交わりの中で抱える葛藤など、随所にちりばめられた「漱石らしさ」に気がつくからだ。さすが「自他ともに認める漱石マニア」を名乗っている香日氏の作品だ。

 2023年11月8日発売の『JK漱石』2巻では、ある別の文豪も転生している可能性が浮上する。漱石の生まれ変わりである璃音を通して、同居するはずのない遠い過去と今が次々と繋がっていく感覚にドキドキしてしまう。ここから先、いったいどんな展開が待ち受けているのか。夏目漱石ファンはもちろん、そうでなくてもどんどん引き込まれていくこと間違いなし。引き続き、漱石の転生生活を見守りたい。

文=月乃雫