東野圭吾に今回も騙される大どんでん返しミステリー。俳優志望の男女7人に仕掛けられた現実か芝居かわからなくなる殺人劇の謎

文芸・カルチャー

更新日:2024/1/18

ある閉ざされた雪の山荘で
ある閉ざされた雪の山荘で』(東野圭吾/講談社)

「また今回も騙されたー!」と笑ってしまった。

 推理小説は好きでよく読むほうなのだが、東野圭吾先生の作品にはいつも勝手に一泡吹かされる。その中でも、本記事で紹介する『ある閉ざされた雪の山荘で』(東野圭吾/講談社)は、思いもよらない角度からの大どんでん返しにあう作品だと感じた。

 物語の舞台は、早春の乗鞍高原のペンション。そこには7人の男女が集められていた。彼らは全員、業界で有名な演出家・東郷陣平が手掛ける舞台のオーディションに合格した者たち。てっきりここで4日間稽古をつけてもらえるのかと思いきや、ペンションのオーナー・小田からは「東郷先生はここには来ない」と告げられる。

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 なぜ自分たちが集められたのか。戸惑う彼らに届く1通の速達。そこには「ここは吹雪の山荘と仮定した君たちの舞台稽古場だ。君たち一人ひとりに脚本家、演出家、役者になってもらい今後起きる出来事に対処してほしい」という東郷からの言葉が綴られていた。手紙をよこしたことから察するに、東郷は直接質問を一切受けつける気はない様子。加えて「ペンション内の電話を滞在期間内に使用したり、外の人間と接触を図ったりした時点でオーディションの合格を即刻取り消す」とまで書かれている。閉ざされたペンションという設定でよく目にする出来事といえば、殺人事件だろう。推理小説ではありきたりだ。彼らも「もしかしたらこれから起こることは殺人事件なのか……?」と疑問を持つが、実際には閉ざされてもいなければ雪も降っていない、殺人なんか起こるわけがないと一蹴する。

 しかし事態は急変する。2日目の朝、メンバーの一人・笠原温子が遊戯室で何者かに殺されたことが発覚する。死体はどこにも見当たらず、残っていたのは「笠原温子は殺された」と書かれたメモだけ。ここから彼らを取り巻く状況が急激に変わっていく。

 作中では、劇員の彼らが徐々に心理的に追い込まれていく様子が描かれる。今すぐにでも逃げ出したい気持ちはあるが、ここから出ようとすれば東郷の舞台には出演できなくなる。有名な演出家の作品に出演することは貴重な経験であり、誰もが逃したくないチャンスだ。その気持ちは全員が持っているようで、あくまでこれはフィクションで芝居の一部なんだと考えるようになる。しかし日がたつごとに一人、また一人と誰かが殺されていくのだ。次に殺されるのは自分ではないのか……誰がどんな目的で殺しているのか。「わからない」という言葉から紡ぎ出される恐怖を、きっと感じられるだろう。

 事の顛末を推理しながら読むのも推理小説の醍醐味だが、本作は「完璧に謎を解いてやろう」と躍起にならないことをおすすめする。それよりも、じっくりと登場人物同士の関係に着目しつつ、自分もその別荘にいるような感覚で読み進めたほうが楽しい。この殺人劇は芝居なのか、それとも本当に起きていることなのか。驚愕の終幕があなたを待っていることを約束する。

文=トヤカン