「ウニ駆除クエスト」に立ち向かうプロダイバー。登録者27万人超YouTuber発刊のウニと環境問題に向き合う1冊

暮らし

公開日:2023/12/5

プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話
『プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話』(中村拓朗/KADOKAWA)

 チャンネル登録者数27万人を超えるYouTube「スイチャンネル」が、このたび『プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話』(中村拓朗/KADOKAWA)を発刊した。なかでも人気の動画はガンガゼという種類のウニを駆除する動画で、海の磯焼け問題などを分かりやすく解説している。本著では、「本当にウニ駆除は必要なのか?」という筆者の疑問を解き明かすための行動を丁寧に描いている。今回は、著者の中村さんにウニ駆除に興味を持ったきっかけをインタビューした。

ウニ駆除が本当に必要なのかを自分の目で確かめたかった

――中村さんがウニ駆除を始めたきっかけを教えてください。

中村拓朗(以下、中村):海の磯焼け問題というのは、長年にわたって問題視されています。ある地域ではウニが減ったら磯焼けが回復したという報告などもあり、いつの間にか各地で「ウニのせいで磯焼けが起きている」と言われるようになりました。僕が潜っている長崎の海でも、ウニが磯焼けの原因と言われていて、漁業組合などがウニ駆除の活動を積極的に行っていました。しかし、どれだけ駆除しても磯焼けは回復しない。それってなにかがおかしいですよね。ウニ駆除が本当に磯焼けに効果的なのか、自分の目で確認してみたいと思ったのがウニ駆除をするようになったきっかけです。

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中村さんがウニ駆除を始めたきっかけ

――それでは、中村さんはウニ駆除を通して実験的に効果があるのかを確かめたかったということですか?

中村:まさしくそうです。自分ひとりで駆除をしたときにどの程度磯焼けが回復するものなのかを観察してみると、どうやら海ごとに違いがあるらしいということが分かってきました。そして、長崎の海でどのように磯焼けが起きているのかも少しずつ理解が深まっています。なにかを悪者にするのはすごく簡単だし楽だと思うんですが、それをすべての海に当てはめてしまうと改善策を見誤るというのが、活動を通して僕が学んだことです。

ウニ駆除を通して実験的に効果があるのかを確かめたかった

海の環境はたった1年で変化することも珍しくない

――海ごとの解決策があるということですが、明確に違いが出るものなのでしょうか。

中村:YouTubeチャンネル以外にも学校で講演などに呼んでいただく機会があるのですが、海を身近に感じていない人からは「海は繋がっているんだからそんなに大きく変わらないんじゃないですか?」と聞かれることがあります。でも、そんなことはありません。海水温が変われば生息している生き物の種類は大きく変わります。

 さらに言うと、海の環境はたった3年ほどでガラリと変化します。これは実体験なんですが、長崎の海でタツノオトシゴを観察できていた時期があったのに、3年後にはまったく見かけなくなったんです。これはものすごくショッキングな出来事でした。海のことを知れば知るほど分かってきたのは、3年どころか1年でその海から姿を消す生きものもいるということです。

――たった1年で生き物の生息域が変化するというのは驚きですね。環境問題に関することはもっと長い時間をかけて衰えていくものかと思っていました。

中村:たまたまいなくなっただけだと思うかもしれないですが、それから現在に至るまでタツノオトシゴはほとんど見かけていません。ということは、気をつけないといつの間にか環境が変わり、そのまま海の生きものの姿が見られなくなるという事態になってしまいます。
 環境問題という大きなテーマにしてしまうと、すごく遠いところで起きている自分には関係ないことだと思ってしまいがちです。しかし、私たちの生活や食に密接に関係しているということを今一度思い返してみてほしいのです。

たった1年で生き物の生息域が変化するというのは驚き

いろんな人に知ってもらってより良い解決策が見つかるのを切に願っている

――今回、出版を通じて中村さんが磯焼け改善のために期待していることはありますか?

中村:僕は研究者でもないし、知らないこともたくさんあります。だからこそ、僕よりも頭の柔らかい人にこの事実を知ってもらってなにか解決策を見つけられたらいいなと思っています。他人任せだと思うかもしれないですが、考えてくれる人の母数が増えれば、それだけいろんなアイディアが出て、検討する機会も増えるでしょう。

 まだまだ海には、未知の部分がたくさんあり磯焼けがどのような原因で起きているのか、原因を取り除けばまた海藻が生えてくるのかなど分からないことはたくさんあります。多くの問題が複合的に重なっているからこそ、適切な答えを丁寧に見つけていきたい。そのためにも、まずは興味を持ってもらうところから……という意味でもエッセイという比較的読みやすい体裁になっています。

写真=中村拓朗
取材・文=山岸南美