太宰治『火の鳥』あらすじ紹介。未完の長編で描きたかったものとは? 死の淵から蘇った女は女優を目指し…
更新日:2024/11/25
薬物中毒や自殺未遂などの荒れた私生活を私小説として昇華し、数々の名作を残した太宰治。未完ながら彼の精神性が垣間見える作品のひとつに『火の鳥』があります。本稿では、太宰治『火の鳥』のあらすじを分かりやすく解説します。死の淵から蘇り、女優業に再起を懸けた幸代の選択は正しかったのか。結末は読者の皆さんに委ねられています。是非一度読んでみてください。
<第99回に続く>
『火の鳥』の作品解説
『火の鳥』は太宰治が1939年に発表した、死と再生をモチーフにした未完の小説です。短編の多い作者としては珍しい長編で、3倍ほどの文量を予定していたようです。
太宰の『富嶽百景』にも登場する旅館・天下茶屋に滞在中、乱れた私生活からの脱却を図って執筆され、私生活と精神の安定に伴って未完となったと言われています。
『火の鳥』の主な登場人物
高野幸代:奥羽生まれ、天涯孤独となり17歳で上京。男を熱狂させる魅力をもつ。
須々木乙彦:アナーキストの大学生。彼の死から物語は動き出す。
高須隆哉:乙彦のいとこ。幸代の身元引受人になる。
善光寺助七:幸代に魅入られた新聞記者。高須へ歪んだ期待を寄せる。
三木朝太郎:特異な作風で知られる劇作家。「歴史的」が口癖。
八重田数枝:四谷のアパートに住む踊り子で、幸代の元同僚。
『火の鳥』のあらすじ
都会の荒波の中で生きていた幸代は、勤め先のバーで出会った乙彦と心中を図るが、ひとり生き残る。新聞にも載ったため一度は帰郷するも、隠棲先の温泉宿で出会った旧知の劇作家である三木に金を無心し、東京へ逃げ帰る。
元同僚である数枝のアパートでくすぶっていた幸代だが、三木に女優にならないかと持ちかけられていた。三木は幸代を巡って新聞記者の助七に決闘を吹っかけられる。逡巡の末、幸代はアパートに書き置きを残して三木の家を訪れ、女優になると告げた。最初は邪険にあしらう三木だったが、結局承諾してふたりは同棲を始める。
幸代は初舞台で成功を収める。公演3日目、舞台上の幸代に舌打ちして観客席から退出した乙彦のいとこである高須だったが、初日から通っていた助七と遭遇。幸代と会うのをためらう高須は、助七の後押しで楽屋へ向かうも、彼女を案じる数枝に制止された。
数枝は高須をバーに誘い、乙彦の姿を重ねる。幸代に女優をやめさせ、国へ帰らせたいと言う高須に、彼女を偉くしてあげたい、あなたの負けと返す数枝。
ふたりの会話は過熱し、数枝は幸代が三木の妾をしているとこぼす。それを聞いた高須は、自分が一番彼女を理解し愛している、殺してやると口走り、三木の住まう淀橋へタクシーを走らせた。